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小説:●*kimikiss*Asuka 「旅の途中」 〜Cinderella in the Christmas

キミキスショートストーリズ・第1巻 咲野明日夏編

●*kimikiss*Asuka

旅の途中〜Cinderella in the Christmas

咲野明日夏編。
キミキス c2006 ENTERBRAIN,inc.
【プロローグ】

「ふぁぁぁぁ、あふぅ」

 週末の昼下がり、郊外に向かう電車の中。
 扉の横のスペースにもたて流れていく風景を眺めながら、私はあごが外れんばかりの大きなあくびをした。
 十二月の半ばにしては日差しが温かくて、単調な電車のリズムに揺られていると、つい眠気を催してしまう。
「眠そうだね。咲野さん」
 同じようにドアにもたれる、隣の相原君が私をみて笑う。
「あ、あっ、……見てた?」
「もうばっちり。もうすこしで喉ちんこが見えそうだった」
「……んもう、相原君の意地悪」
 あまりに直接的なコメントに、顔が赤くなる。
 彼は笑いながら、私の目尻の涙を拭った。
「まだ眠い?」
「うん……昨日帰ったら、ばたんきゅーだったんだけどねー。寝過ぎちゃったのかなぁ」
 もう一度あくびをする。こんどはちゃんと、口を手で隠すことを忘れない。
 冬休み前の長く苦しい試験期間がようやく明けて、私と相原君は久しぶりにデートに出かけていた。
 慣れない勉強で毎晩寝不足続きだった日々も昨日でようやく終わり、ふらふらになりながら玄関からベッドに直行したのが午後の二時。
 気がつけば時計の針は九時を指しているのに、窓の外は明るくて。つまり私は二十時間ちかく眠っていたことになる。
「でもお母さんに聞くと、夕食の時間にはちゃんと起き出して普段どおりご飯食べてたし、お風呂にも入ってたんだって」
「ははは……よく溺れなかったね」 その話を聞いて、彼は大笑いした。

 電車は海沿いを走り、目的地の海浜公園を目指す。
 お目当ては、最近できたという大型のアウトレットモール。有名ブランドの訳あり商品が格安で手に入り、海の側で景色も良く、ショップ以外にもおしゃれな店がそろっているということで、デートコースとしてもかなりの人気があるという。
 私には不釣り合いの場所のようにも思えたけど、クラスの友達に雑誌を見せてもらうと有名なスポーツブランドの直営店も数件入っていて。
 そろそろ新しいスパイクが欲しいかなと思っていた私は、ちょっと背伸びをしてその「おしゃれなデートコース」に相原君を誘ってみることにしたのだった。
「でもそんなに疲れてるんだったら、やっぱり来週にしたほうが良くなかった?」
「いいのいいの、別に疲れてる訳じゃないし。どうせ何もなかったら、一日中家でごろごろしてるだけだったから」
 それに、今日がいいといったは私の方だった。
 勉強が大の苦手の私が試験を乗り切るには、短期決戦で、かつ、ボーナスを用意してモチベーションを高めておかないといけない。
 今日のデートがあるからこそ、古典文法も英文法も微分積分も、どうにかクリアできたのだ。
 ……結果を見るのは怖いけど。

「うわぁ、すごいねぇ」
 モールに着くなり、咲野さんは先程の眠そうな様子が一変、大はしゃぎで海の方に駆け寄っていった。
 南欧の風景を模したという薄い色の煉瓦造りの建物が二つ、正面の右と左に配置され、中央にはヨットハーバーを模したウッドデッキのスペースが水上にせり出している。
 文字通り海に面した一大商業施設で、吹き付ける海風がつよいけど咲野さんはそんなことも気にせず、ポニーテールをなびかせてこっちへおいでと手招きしている。
「見てみて、魚がいるよ。こんな近くに」
 木製の手すりに身を乗り出し、咲野さんは足下の海中を眺める。
「あんまりのりだすと危ないよ」
 これじゃあカップルの会話というより、親子の会話だなぁ。そんなことを思いつつ、僕も隣で海を見る。
「あ、ハリセンボン」
「えっ、どこ? どこ? 怒らせたらぷくぷくふくれるやつだよねっ?」
 いつも通りの、明るく無邪気な咲野さんで、正直ほっとする。


 今からちょうど一ヶ月前、全国高校サッカー大会の地区予選最終戦。
 輝日南高校サッカー部は、予選を五連覇している強豪校を相手に一歩も引かぬ接戦を繰り広げた。
 後半ロスタイム、世界戦でも活躍しているという相手チームのエースが蹴ったコーナーキックは、敵から見ても惚れ惚れするような弧を描き、味方ゴールへと突き刺さった。
 その直後、ホイッスルが無情にも長く響き、輝日南高校サッカー部の戦いは終わった。
 ピッチに崩れ落ちる選手達。
 でも、僕の視線はピッチの外で同じように崩れる彼女の姿に釘付けになっていた。
 出場できないとわかっていても、皆と同じユニフォームに身を包み、声を涸らしてメンバーを盛り上げていた咲野さん。
 彼女は周りの様子も気にせず、天を仰ぎ、大声で泣いていた。
 聞こえるはずのない彼女の叫びが聞こえてきそうで。
 その姿はとても悲しく、そして何故か、とても美しく思えた。


 くちゅん。
 隣の可愛らしいくしゃみで我に返る。
「えへへ……ちょっと寒いね。そろそろ中に入ろうか」
「そうだね。お腹はへってない?」
「うん。朝昼兼用で食べてきたから、私は大丈夫だよ」
 お腹をぽこんと叩いてみせる咲野さん。
「よし、それじゃまずは買い物に出発だ」
「はい! コーチ!」




【01】



 ドアを抜けると、吹き抜けのエントランスにそびえ立つ巨大なクリスマスツリーが僕たちを出迎えた。あまりに高すぎて、頂点の一番星はここからは見えない。
「うわぁぁぁ、おっきいぃぃ。これだけ大きいと見応えがあるねぇ」
 咲野さんは後ろにひっくり返ってしまいそうなくらい体を反らせてツリーを見上げる。
「電飾とかの電気代が馬鹿にならないような気もするけどね」
 もう、夢がないなぁ、と咲野さんは笑う。
「咲野さんって、いつくらいまでサンタさんの存在を信じていた?」
「んーと、まだ信じてるよ。意味はちょっと違うかも知れないけどね」
 咲野さんは曖昧に笑って、ある話を聞かせてくれた。

 今から百年ほど前、八歳になる女の子が、ニューヨークにある新聞社に一通の手紙を書いた。

『サンタクロースは本当にいるのですか?』

 米国を代表する全国紙の論説委員は、その手紙に紙面の上でこう答えたという。



じつはね、ヴァージニア、サンタクロースはいるんだ。
愛とか思いやりとかいたわりとかがちゃんとあるように、サンタクロースもちゃんといるし、
愛もサンタクロースも、ぼくらにかがやきをあたえてくれる。
もしサンタクロースがいなかったら、ものすごくさみしい世の中になってしまう。
ヴァージニアみたいな子がこの世にいなくなるくらい、ものすごくさみしいことなんだ。
サンタクロースがいなかったら、むじゃきな子どもの心も、詩のたのしむ心も、
人を好きって思う心も、ぜんぶなくなってしまう。
みんな、何を見たっておもしろくなくなるだろうし、
世界をたのしくしてくれる子どもたちの笑顔も、きえてなくなってしまうだろう。




「中学の英語の教材だったんだけどね。これ読んで、じーんときちゃって」
 だから私も、『サンタさんはいる』って信じるようにしてるんだ。
 照れ笑いを浮かべながら、咲野さんはそう言った。
「そっか。いい話だね。僕もこれから、そう答えるようにするよ」
「……ふふ、ありがとう」
 プレゼントとかデートとか、最近のクリスマスには出番が少なくなってしまったけれど。
 サンタさんはそんな僕らをきっと、笑いながら見ているのだろう。
 少し温かい気分になった僕らは、手を繋いで吹き抜けの広場に進んでいった。

 エントランス周辺は、婦人服のブランドが集まっているようだった。ショーウィンドウではクリスマスの
デコレーションに飾られて、華やかな服装に身を包んだマネキン達がマネキン達が思い思いのポーズを取っている。
 お目当てのスポーツショップはもう少し奥にあるみたいだけど、足を速めて通り過ぎようとする咲野さんの手を引き留め気味に、わざとのんびり、ウィンドウショッピングを楽しむ。
「おしゃれな服ばっかりだねー。なんだか気後れしちゃうよ」
「咲野さんはこういう服には興味ないの?」
 今日の彼女の服装は、茶色のスェードの上着にセーター、デニムのパンツに、足元はスニーカー。中性的な雰囲気は咲野さんによく似合ってはいるのだが。
「あー、ダメ。私はこういうオシャレな服は似合わないから」
「そんなこともないと思うんだけどなぁ……」
 そういえば外で会うとき彼女はいつもパンツスタイルで、制服以外でスカートを着た咲野さんを見たことがない。
「ひょっとして、スカートとか、女の子っぽい服装って、苦手だったりする?」
 う、と顔をしかめる咲野さん。図星か。ならば。
「折角だから、ちょっと見ていこうよ」
「えー、いいよぅ、私みたいなガサツな子がこんなの着ても似合わないよぅ」
「そうかなぁ。きっと似合うと思うけど」
「こういう服は似合う人が着ればいいんだよぉ。B組のお嬢様とか、妹さんとか」
「僕が見たいのはスカートの似合う女の子じゃなくて、咲野さんのスカート姿なんだけどなぁ」
「ず、ずるい……」
 卑怯ではあったが、殺し文句を使って咲野さんを納得させる。
 足取りの重い咲野さんの手を引いて、僕たちは一件のショップに入った。


 相原君に連れられて入った店は、カジュアルな女性服を扱った店だった。
 いかにも『女の子』な服ではないものの、ちょっとオシャレなスカートや上着が並んでいて、私一人では絶対に避けて通っているタイプの店だ。
 小学校の頃から男の子に混じってボールを追いかけていた私は、女の子が興味を持つおしゃれ全般にとことん疎い。苦手意識を持っていると言っていい。
 そんなわけで、いろんなデザインの服を目の前にしても、何を着れば似合うのかなんてさっぱり分からず、手を伸ばすこともなくただ眺めていることしかできなかった。相原君自身も別にこういう店に慣れているわけではないらしく、
「……これなんかどう?」
「……うーん」
「……これは?」
「……むー」
 といった具合で。そんな私達を見かねてか、
「何か探してる?」
 綺麗でおしゃれな店員さんが話しかけてきてくれた。フレンドリーな対応が今は有り難い。
 相原君がかいつまんで事情を説明して、店員さんに何点かオススメを選んでもらう。
 持ってきてくれたのはどれもシンプルなデザインのロングスカートで、『ふりふり・ひらひら』を恐れていた私は少しだけ安心したのも束の間、
「じゃ、とりあえず試着してみて」
 油断しているうちに、スカートと一緒に試着室に放り込まれてしまった。
 慣れないままに試着してもじもじと披露する。
「ど、どう、かな……」
「うん、新鮮でいいよ。全然おかしくない」
 相原君は褒めてくれるが、店員さんはうーん、と難しい表情をしている。
「あなたはどう?」
「え、私ですか……なんだかちょっとぴったりしていて、窮屈っていうか……でもスカートって、こういうものなんですよね?」
 店員さんは納得いかないという表情で、私をくるくる回しては姿を確認している。
 暖房が効きすぎているせいか、額に汗をかいてしまう。
「ちょっとごめんなさい」
 そういうと彼女はおもむろに、スカートの上から私の太股やおしりをさわり始めた。
「ひっ、ひやっ、何をっ?」
「ふんふん……あなた、スポーツやってる? サッカー? フットサルじゃなくて? へぇ、通りでいい足腰してるわけね」
 そんな事を聞きながら、店員さんは私の体型を確認して、ようやく手を離してくれた。
「ひょっとして、足の太さとか気にして、スカート敬遠してたりする?」
「……は、はい。ちょっとだけ」
 気にしていたことをぴたりと言い当てられて、どきっとする。
 悩み事という程大げさなことではないんだけど、時々テレビなんかで足の綺麗なモデルさんなんかを見かけると、男の人はこういうのが好きなのかなぁとちょっとだけコンプレックスを感じてしまうのは確かだった。
「なるほどね……ちょっと待ってて」
 そういうと、店員さんは別のスカートを持ってきた。色合いはおとなしめだが、生地をかなりたくさん使った、ひらひらのデザイン。
「……こういうのは苦手?」
「はい……こういう女の子っぽいのは……」
「そんなことないわよ。あなたくらいスタイルがよかったら、格好良く着こなせるって。はい、履いてみて」
 反論の隙も与えられず、再び試着室のカーテンが閉じられる。
「ど、どうでしょうか、コーチ……」
「……」
 試着を終えてカーテンを開けと、相原君は呆然と言った表情で私を見ていた。
 やっぱり失敗だったのだろうか。背筋に嫌な汗が走る。
 一方、コーチもとい店員さんはというと、してやったり、という笑みを浮かべている。
「……ほら、彼氏。ちゃんと褒めてあげないと」
「あ、えーと……すごく、似合ってる。かっこいい。」
「え……?」
 何故か緊張した様子で私を褒める相原君。うんうん、と一人納得しながら、店員さんは再びくるくる私を
回転させて、全体をチェックする。
「どう? 今度は苦しくないでしょ? そのくらいゆったりしてた方が、体型も目立たないし、体も動かしやすいの。どう?」
 言われたとおりだった。先程と違って締め付けられているような感覚もないし、生地は多少重いけど足もわりと自由に動かせる。
「彼氏の表情、見た?」
「え?」
 店員さんはスカートを確認するふりをして、そっと私に耳打ちした。
「明らかに惚れ直したって顔、してたよ」
 その言葉にどきりとする。
「他のを持ってきてもいいけど、今履いてるのが私は一番似合ってると思うよ。どうする?」
「……わかりました。これ、頂きます」
 私は買い物の時、あまり悩んだりしないで一気に決めてしまうタイプだった。値札に赤字で上書きされた数字はお小遣いに優しいものではなかったものの、決して手が出せない程でもなかった。
「ふふふ、ありがと。どうする? このまま着ていく?」
「……彼、喜びますか?」
 女二人、試着室での密談に、相原君は怪訝な表情をしている。
「そりゃもう。自分の影響で女の子が変わって、喜ばない男はいないわよ」
「じゃぁ、このままでお願いします」
 私と店員さんは、顔を見合わせてこっそり笑った。

 そのままの姿で出てきた私を見て、
「折角だから、このまま着ていこうかなって」
「そっか、うん。いいんじゃないかな。似合ってるし」
 店員さんが予言したとおり、相原君はとても嬉しそうで。私はそれが少しこそばゆかった。
 今まで履いていた服を代わりに袋に入れてもらって、会計を済ませる。
「セールとVIPカードの割引きと、クーポンを差し引いて、二千三百円になります」
「え?」
 意外なことに、払った金額は値札の半額以下だった。
「お得意様ならそういってくれればもっとサービスしたのに。また来てちょうだいね、水澤摩央さん」
 にっこり笑った店員さんに見送られ、釈然としない気持ちで店を出る。
 実は、と言って、相原君は事情を打ち明ける。
 この系列の店は、三年の超有名人にして相原君の幼なじみでもある水澤先輩のお気に入りの店で、今日ここに来ることを先輩に言った(相原君の言い方なら『口を滑らせた』)ところ、受験勉強の追い込みで忙しい先輩は(恨み辛みの言葉と共に)メンバーズカードと、今年いっぱいで期限が切れるクーポンを渡してくれたという。
「ってことは……全部計画済みだったって事?」
「まぁ、少しだけ。絶対入ろうって決めてたわけでもないし、なにより」
 相原君は少し照れくさそうに、視線を外して言った。
「こんなに似合うとは思ってなかった。感動した。」
 私もつられて赤くなってしまう。
「もうっ、相原君のばかっ」
「あはは、ごめん」
「……これで、先輩の名前が出てこなければもっと良かったのに」
「え? 聞こえなかった?」
「もうっ、何でもない!」
 私は手にしたばかりの買い物袋をスイングさせて、彼にぶつけてやった。




【02】



「見てみて、面白ーい」
 私達は無事スポーツショップをはしごして、目的のおニューのスパイクを手に入れることができた。去年のモデルというだけで値段もかなりお手頃になっていて、ウェアやその他の小物に、先程のスカートの分を入れてもお小遣いの範囲で収まったのは嬉しい。
 そんなわけで、スカートの御礼に相原君に何かプレゼントをしようとバーゲン品を物色していたところ、面白いコーナーを見つけた。ワールドカップ商戦の処分品なのか、サッカーの各国代表のユニフォームのレプリカが格安で並んでいるのだが、ほとんどの品が残り一枚二枚なのに比べて、明らかに枚数の多いユニフォームが二種類、山と積まれている。
「ほらほら、相原君こっち持って。で、私がこっちで」
 相原君に白地にトリコロールがデザインされた10番のユニフォームを渡し、わたしは青地に黒のラインが入った23番のユニフォームを体の前に合わせる。
「……なんだっけ、これ?」
「もう、忘れちゃった? えーっと……この浮気者!」
 わけもわからず突然罵倒されて、相原君は目を丸くしている。
「まだ思い出さない? このスケコマシ! おっぱい星人! 足フェチ野郎!」
 さすがに穏和な相原君もかちんときたのか、むっとした顔でこちらに詰め寄ってくる。
 と、そこでさすがに気がついたのか、
「あー、そう言うことか」
 そのまま頭を下げて、私のおでこにこつんと、軽い頭突きを入れた。
 二人で顔を見合わせて笑う。
 言うまでもなく、今年のワールドカップの決勝戦で起きた事件を再現したブラックジョークな訳だ。
「明らかにこの二種類だけ、改めて作りましたって感じだよね」
「これから忘年会シーズンだから、宴会部長が買っていくんだろうなぁ」
 こうやって側で見ている間にも、若い男性からおじさんまで、次々に二枚をセットでレジに持って行っている。
「でも、浮気者とかスケコマシはひどいなぁ。僕ってそんな風に見られてたんだ」
「んーと、そっちは口から出任せだから安心して」
「じゃぁ、後の二つは……」
「……私は別に、ジダンみたいに胸に頭突きされてもよかったんだけど?」
 意地悪く笑って見せると、彼は情けない声を上げて、頭を抱えてうなだれてしまった。
 折角なので後々も楽しめるように、私はユニフォームを二枚まとめてかごに入れる。
 さっきのスカートのお返しだ。

 その後、相原君の洋服を見たり、ワゴンセールのガラス細工をひやかしたりして、ざっと一通り建物の中を回った。店の数も広さもかなりあって、好きな人なら一日中でも楽しめそうだ。
 アンティーク調のおもちゃ屋さんに飾ってあったテーブルサッカーでいい勝負をした後、私達は吹き抜けの広場に出た。エントランスとは違ってこちらは中心に円形の噴水があり、高い水柱を上げている。
 噴水の前にはちょっとしたイベントスペースが設けられていて、司会のお姉さんがマイクを片手に何かしゃべっていた。
「何やってるんだろ……リフティングコンテスト?」
「それにしては参加している人がいないね。」
 どうやらクリスマスバーゲンのイベントの一環として、お客さん参加のリフティングコンテストが行われているらしい。しかし、家族連れよりもカップルが多い中、わざわざ足を止めて参加しようとする人は少ないらしく、ステージの上ではサッカーボールがぽつんと寂しそうにおかれている。
『ただいまコンテスト参加者を受け付けていまーす。どなたかいらっしゃいませんかー?』
 司会のお姉さんも困り果てた様子で、道行く男性や子供に声をかけているのだが、この状況でステージに上がるのが恥ずかしいのか、むしろ声をかけられた側が足早に立ち去っているという感じだった。
 うーん。
 こういうのを見ると放っておけないというのが私の悪い癖で。
「相原君、ちょっと行ってきていい?」
「いいけど……その格好で大丈夫?」
 彼は私の足元を見て言う。そこにはひらひらのスカートが。
 そうだった。すっかり普段の感覚で、パンツスタイルだとばかり思っていた。
「今から着替えてくる?」
「うーん、そこまでして出るのも……あ、そうだ。相原君さっきのスポーツショップの袋、貸して」
 相原君は素直に、手にした荷物の中から銀色の袋を差し出した。(荷物は互いに自分が持つと言い張った後、結局相原君がぜんぶ一人で持っていた)
 袋の中から、さっき買ったばかりのスパッツを取り出す。これから何をしようとしているか察した彼の顔が一瞬で引きつる。
 その場でスパッツを履こうとした私は慌てた彼に手を引かれ、とりあえず人目につかなそうな場所にまで連行された。
「さ、咲野さん! あんな人前で!」
「えー、大丈夫だよ。誰も見たりしないって」
 それでももし転んだりしたら……と、一人ぶつぶつ言いながら、彼は赤くなった顔をそらせた。とりあえず誰か来ないか、当たりに気を配っているらしい。大げさなんだから。
 手早くスパッツをはいて、スカートの裾を腰のところで結ぶ。ちょっと重い感じはするけど、動く分には大丈夫そうだった。上着を脱いで、相原君に預かってもらう。
「どう? おかしくないかな?」
「いやおかしくはないけど……。もう止めても行くんでしょ?」
 相原君は私の生足をちらちら見ながら、やはり赤い顔でため息をついた。



 はーいはーいと手を振りながらステージに向かう咲野さんに、司会のお姉さんやスタッフの面々はおろか、前を通りかかった人も何事かと振り返る。
『えーっと、参加希望の方、ですか?』
 とまどい気味に尋ねるお姉さんに、咲野さんは元気よく答えている。物怖じしないというか、肝っ玉が据わっているというか。
 突如現れたコンテスト参加者に、ステージの周りはにわかに活気付き始めた。そりゃそうだろう。若くてかわいい女の子が、ワイルドかつちょっとセクシーな格好でこれからリフティングをしようというのだから。人が集まる前に、ステージ前の最前列まで進んでおく。
『お名前を伺ってもいいですか?』
『はい、咲野明日夏、十七歳です!』
 聞かれもしない年齢まで答えて、ギャラリーから低いどよめきが上がる。
 さっさと始めればいいものを、客が食いついてきたものだからこれ幸いと司会のお姉さんは咲野さんへのインタビューを続けている。他の男共に咲野さんの姿を見られているというだけで、訳もなくいらいらしてくる。やっぱり止めておけばよかったかもしれない。
 ようやくインタビューが終わり、いよいよトライアルがはじまる。
 咲野さんの表情がそれまでの笑顔から、少し唇を突き出した集中するときの表情に変わる。夏の終わりの練習の時、ずっと側で見ていた表情。
 すぅ、と息を吐いて、彼女はおもむろにボールを蹴り上げた。
 膝、肩、頭、つま先、胸。
 ボールは意志のある生き物のように咲野さんの体を跳ね回る。咲野さんもまた、ダンスのようにリズミカルに体を動かし、ワンテンポ遅れてトレードマークのポニーテールが弾む。
 最初は躍動する脚や弾む胸に目をとられていた観客も(何故そんなことが分かるかって? 自分もそうだったからに決まっている)五百回を超える頃から彼女がただのかわいい女の子ではないと気づきだし、パーツの魅力から、そのしなやかな全身の動きに目を奪われるようになっていくのがわかった。
 ボールに集中したまま体を動かし続け、額に汗が浮かび始める。頬は上気し、息づかいが激しくなって、女の子らしさとは対極にあるはずなのに、目が離せないほど美しく、そして色っぽい。
 周りの男達も同じような視線で彼女のことを見ているのかと思うと、いますぐ咲野さんの手を引いて、いや抱きかかえてでもいい、ステージから連れ去って二人きりになれる場所まで走っていきたい気分になる。
 そんな僕の嫉妬をよそに、リフティングは間もなく千回に達しようとしていた。
 だが、突然のアクシデントが彼女を襲う。
 他の男に見せたくないという屈折した思いが通じたのか、結んでいたはずのスカートの裾がほどけ、ゆったりとした生地が彼女の脚を覆ってしまった。
 観客から悲鳴にも似たつぶやきが漏れる。
 咲野さんはとっさにボールを高く蹴り上げ、頭の後ろでキャッチした。会場は安堵のため息に包まれる。
 その状態で咲野さんは再びスカートの裾をとり、なんとか結ぼうとしていたがうまくいかず、結局裾を手にしたままでリフティングを再開した。
 その様子はますます東欧あたりの民族舞踊に似てきて、いつのまにか会場では手拍子の応援がはじまる。
 僕はというと両手に荷物と上着を手にしたまま、ただはらはらと咲野さんの様子を見守るしかできなかった。一度は持ち直したかに見えた咲野さんも、脚の動きは先程より制限され、裾を持つ両手では体のバランスもうまくとれず、かなり苦しいのが僕にも分かる。
 ボールは予想外の方向に跳ねることが多くなり、そしてついに、会場の外へと大きく跳ねた。

 その先に僕がいたのは偶然で、
 とっさに足が伸びたのは無意識で、
 ボールに足が届いたのは奇跡的で、
 再びボールが咲野さんの元に戻っていったのは、たぶん気の早いサンタの仕業に違いない。

 目の前で起きたささやかな奇跡に、僕も、咲野さんも、会場の誰もが驚き、そして次の瞬間、誰からともなく大きな歓声が上がった。
 咲野さんも先程の真剣な表情から、とても楽しそうな笑顔になって、普段はしないようなトリッキーな動きを取り入れて、アクロバティックにボールと踊り出す。
 リフティングコンテストはいつのまにか彼女のリフティングショーになり、最後はスカートをひるがえして三回転を決めた後、高く蹴り上げていたボールを足元でトラップしてフィニッシュ。
 その瞬間、会場から大きな歓声と拍手が惜しみなく彼女に与えられた。
『おつかれさまでした! 素晴らしかったです!』
 彼女は荒げた息を整えていて、司会のインタビューにしばらく答えられない。
『ボールを蹴り返してくださった方はお友達の方ですか?』
『……っは、はい。私の、彼氏、です』
 マイクを使って広場全体に響いた声に反応し、ステージの周りはおろか、吹き抜けのテラスから観戦していたギャラリー全体から一斉に冷やかしの声が上がる。

 その後僕は無理矢理ステージに上げられ、ずいぶん長い間彼らの慰み者にされた。




【03】



「こっ……これは……」
「……ひゃー……すごいね」
 東館のカフェラウンジ。吹き抜けに面した席で向かい合って座る僕たちの間に、一つの巨大な塔がそそり立っていた。
 目をきらきらさせている咲野さん。
 首筋にいやな汗が浮くのを感じる僕。
 それだけで高さ五十センチはあろうかという透明な器には、底からピンクや黄色や白のアイスクリームが地層を成して積み重ねられ、さらにその上に同じく山盛りのアイスクリームと生クリーム。ウエハース、本来の使い道とは逆に突き刺さったコーンカップが絶妙のバランスを保ってデコレーションされ、その頂点には季節はずれの赤いイチゴが惜しげもなく並べられている。
 デラックスストロベリータワーパフェ。
 それがこの悪魔の塔の名前だった。

 リフティングコンテストは咲野さんのパフォーマンスの後、多くの参加者に恵まれ、盛況のうちに幕を閉じた。奇跡のアシストのせいで記録はルール上無効になってしまったが、イベントを盛り上げたと言うことで咲野さんには『特別賞』として、ショッピングモールで使える商品券が贈られた。「一等賞より多いわよ」という司会のお姉さんの耳打ち通り、その額は高校生である僕らにとってはちょっとしたものだった。
 体を動かしてお腹がすいちゃった。お茶でもしよっか。もちろん私のおごりでね。
 特別賞の封筒をひらひらさせながら咲野さんはそう言って、僕らはレストランやカフェなどが集まるモールの東館に向かった。
 アウトレットモールの東館は四角形の建物で、フロアの四分の一が巨大な吹き抜けになっていた。吹き抜けに面した壁は全てガラス張りになっていて、建物のどこにいても窓の外の海が見渡せるという趣向になっているようだ。
 折角の特別賞ということで、僕らでも見慣れたチェーン店の入る一階は通り抜け、少し高級感の漂う喫茶店を目指す。エスカレーターを上りながら眺める窓の外は、夕闇の迫る茜色の空と、空を映して赤紫に染まる海との対比が美しい。遠くには湾を隔てた対岸の街が僅かに見えて、そちらとこちらを結ぶ巨大な橋にはもう、クリスマスカラーのライトアップが点灯している。
 その風景に僕が目を取られている間、咲野さんは店の前のショーケースに目を奪われていた。
 案内された席は吹き抜けに面して窓の外が一望できる特等席で、デートの締めとしては申し分のないシチュエーションだ。僕はコーヒー、咲野さんはレモンティーと謎のパフェを注文し、しばらく僕たちは素晴らしい景色を前に、ちょっと背伸びした、いい雰囲気を味わっていた。
 ……あの悪魔が現れるまでは。

 巨大なパフェは視覚的な効果も抜群らしく、店内のほかのお客さんはおろか、階下のお客さんまでからも注目の的だった。多くの視線と抑えた笑いが僕らに向けられている。今日は何かと注目されることが多い一日だ。
「ささ、早く食べないと溶けちゃうよ。いっただっきまーす」
 咲野さんはそんなことはお構いなしに、長いスプーンを使ってアイスクリームを口に運び、ご満悦といった様子だった。普通のパフェ用よりさらに長い専用スプーンは、当然ながら二本用意されている。悩んでいたところでアイスは溶けていく一方なので、仕方なく僕もスプーンを取ってアイスクリームの処理を開始した。
 一口で舌の先がしびれそうな冷たさと甘さが口いっぱいに広がる。
「んー、おいしー。一度でいいからアイスクリーム、お腹いっぱい食べてみたかったんだよねぇ」
「ははは……お腹、こわさないようにね」
 幸いというか、アイスクリームはどれもそれなりの物を使っているらしく、一口一口は結構美味しかった。ただ、僕が右利き、咲野さんが左利きで、どうしても片方ばかり崩してしまい、上部を崩していくのに少し気を遣う。
「相原君、そのコーンカップお願い」
「はいはい、イチゴ、早く食べないと落っこちちゃうよ」
「うー、好きな物は最後まで取っておきたいんだけど……」
「アイスでコーティングされたのが好みならいいけど。う、生クリームはきついなぁ……」
 背伸びしたいい雰囲気はどこへやら。二人ともパフェに集中し、会話の内容はいかにこの強敵を攻略していくかの一点に絞られている。色気のいの字もない会話。ただ、彼女の目は子供のようにきらきらして楽しげで、やっぱり咲野さんはこういうのが似合うよなぁ、と思ったりもした。
 司令塔の緻密な戦略の甲斐あってか、最初は難攻不落かと思われた敵も、意外と早く攻略することができた。
「うひー、アイスで頭がキーンとしたのって、初めてだよ」
 最後の五センチほどを一人で食べきった咲野さんは、運ばれてきた二杯目のレモンティーを飲みながら笑って言った。ウェイトレスさんが彼女を尊敬のまなざしで見ていたのはきっと気のせいではない。
「僕はしばらく、アイスは食べたくないなぁ……」
 僕は苦い顔で、やはり二杯目のコーヒーを口に運ぶ。冷え切って感覚の薄れた口の中に熱いコーヒーがありがたい。
「あ、相原君ちょっと顔出して。もうちょっと右側、そっちじゃなくて反対反対。そう」
 言われるままに差し出した右頬に、咲野さんはおもむろに唇をつけ、舌を這わせた。
「……なっ!」
 あわてて顔を離す僕を見て、咲野さんは笑った。
「びっくりした? クリームがついてたよ」
「不意打ちとは卑怯な……」
 紙ナプキンをとってクリームの後を拭おうとした僕は、ちょっともったいない気がしてナプキンを置いた。
「あと、心配してくれたお礼、かな。……大会の後、私のこと結構気を遣ってくれてたでしょ?」
 驚いて咲野さんを見返す。
 彼女は先程とは違って、穏やかな笑顔で僕の事を見つめていた。
 普段と違う優しい表情に、不覚にも鼓動がが大きく跳ねる。


「……なんだ、やっぱりばれてたかのか」
 かれは照れくさそうに頭を掻き、視線を窓の外に逃がす。
 ちょうどその時、建物全体の照明が一段落とされ、辺りはほどよい暗さに包まれた。
 次の瞬間、館内に置かれた木々やオブジェが、無数の小さな白い光をまとう。
 上品なイルミネーションの点灯に、あちこちから穏やかな歓声が上がった。
「……まぁ、結局何もできなかったけどね」
「ううん、あなたが側にいてくれてとても嬉しかった。ありがとう、相原君」
 テーブルの上に置かれた彼の右手に、私はさりげなく左手を重ねる。
 あの惜敗の後。
 相原君はできるだけ私の側にいようとしてくれた。彼の言うとおり特別なことは何もなかったけど、一緒に話して、昼ご飯を一緒に食べて、試験前には遅くまで勉強に付き合ってくれて。
 ただ側にいてくれる。そのおかげで私はいつものように笑えたし、いつも通り生活できていた。
「……そろそろ、出ようか」

 館内が白のイルミネーションだったのに対し、建物の外は青い光で彩られていた。
 暗がりの中で姿形がはっきりわかるほど密度の濃い光の粒子が植木やオブジェに施され、それとは対照的に足元のタイルは一定間隔で、赤や黄色、緑といったカラフルな原色の灯りを内側から発している。
 駅や駐車場へと向かう買い物帰りの客達も、屋外に出現した光の森に、名残惜しげに歩調を遅らせていた。
 私と相原君は広場の片隅にあるベンチに腰をかけた。寒さで息が白くなるが、つないだ左手はとても温かい。
「私のこと、心配だった?」
「うん……試合の後、大泣きしてたから。よっぽど悔しかったんだなって」
 手を繋いだまま、お互いに正面を向いて話してるから、相手の表情は見えない。
「……正直、サッカーを止めちゃうんじゃないかって。それが一番心配だった」
「あはは、それはないよ。私からサッカーとったら、ただの運動バカになっちゃうもん」
「そうだよね。今日の咲野さんを見てて、全然見当違いな心配してたんだなって、わかったよ」
 笑ってみせるが、勘違いでもそこまで私のことを心配してくれていたことに、胸がじんとする。
 同時に、私の言葉が足りなくて彼を心配させてしまったことを、申し訳なくも思った。
「私が泣いてたのはね、試合に負けて悔しかったのもあるし、出場できなくて悔しかったのも、もちろんあるんだけど……」


 この試合が、先輩達の最後の試合になっちゃったという事。それが、悲しかった。
 サッカー部の誰もが、私のようにサッカーを一生の夢として追いかけている訳じゃない。
 プロリーグからスカウトを受けている人、大学でサッカーを続ける人、自分の力に限界を感じたり、家庭の事情でやむなくサッカーを諦める人。
 事情は人それぞれで、わたしが口を出せる事ではない。
 でも、この試合を最後に、サッカーをやめてしまう人がいるということが悲しくて。
 それがあの日、私がピッチの側で流した涙の訳だった。


「優しいんだね」
 話を聞き終わった相原君は、私の手にそっと力を込めた。
「そうでもないよ……。自分の事じゃないから泣けただけかも」
「見てたから分かるよ。咲野さんの涙は、哀れみとかもらい泣きとか、そんな軽い物じゃなかったはずだよ」
 彼の言うとおりだった。
 二年という、長いとも短いともつかない時間。みんなで一緒に、必死になって練習してきた。
 だからこれだけは言える。あの時私が流した涙は、サッカー部のみんなの涙だったんだって。
 その時のことを思い出すと、また目頭が熱くなってしまう。
「……見ててくれたんだね。ありがとう」
「僕は……僕は、グラウンドの上で君のパートナーにはなれないかもしれない。けど、人生のパートナーとしてなら、ずっと君のことを……」
 言いかけた言葉を、私はとっさに唇で塞いだ。
 真剣な言葉に対してはイエローカードものの反則だったが、それ以上言われてしまうと私は本当に泣いてしまいそうだった。
「……恥ずかしいセリフ、禁止」
「……ちぇっ、覚えてろ。いつかメロメロにさせてやるから」
「ふふーん」
 そして、二人で白い息を吐きながら笑った。

「それじゃ、こんどはいい話。」
 私は立ち上がって彼に振り返り、胸を張って報告する。
「なんと私、咲野明日夏は、女子サッカー日本代表の強化合宿に招かれることになりました!」
「おお、すごいじゃない。高校もプロも飛び越えて、いきなり世界戦デビュー?」
「……そんな甘い訳はないんだけどねー」
 私は苦笑い。強化合宿といっても、大会直前の調整練習ではなく、プロ以外の学生やアマチュア社会人選手、そういった人を集めて優秀な人材に目をつけるためのイベントというのが正直なところだろうと思う。
「でも、咲野さんの目標にとっては、大切な一歩になるね」
「……うん。だから、精一杯頑張ってくる。冬休みはあんまり会えないけど、我慢してね」
「我慢できないのは、咲野さんの方じゃない? 『相原くーん、寂しいよぉ』って電話かけてきそうだけど」
 意地悪く笑う相原君。ふーん、そんなことを言うんだ。
「だったら……今のうちに、いっぱい甘えさせてもらおうっと」
 私はベンチに座る相原君に、思い切り抱きついた。体ごとぶつかって、首に回した手に思い切り力を込める。
 そして、熱いキス。
 唇と唇を重ねるだけでは飽きたらず、舌を絡め、互いの唾液を味わうほどの大胆なキスを交わす。
 彼の口の中はコーヒーの味がした。
 名残惜しく唇を離し、今度は彼の肩に顔を埋める。
「……ちょっとだけ、待っててね。お正月には帰ってくるから」
「うん……怪我だけ気をつけて。アスカターンをみせつけておいで」
 私達は最後にまた、唇を重ねるだけの優しいキスを交わした。

 帰りの電車の中。咲野さんは昨日までの疲れが出たのか、僕の肩にもたれて眠っている。
「……ふにゃ……ここで伝説の大技、ツインアスカシュート……これでアイス……うふふ」
 一体どんな夢をみているんだか。咲野さんは幸せそうだった。
 窓の外には夜の海が広がっている。窓ガラスに映る、自分と咲野さんの寄り添う姿。
 咲野さんは着実に自分の道を進んで行っている。
 僕は本当に、彼女の隣を歩いていけるのだろうか……。
「えへへ……相原君、ちゅーして、ちゅー」
 一瞬どきっとするが、咲野さんはやはり夢の中だった。悔しくなってほっぺたを引っ張ってみる。
「うー、激しすぎるよう……あ、あなたは妖怪タコ星人……」
 妖怪なんだか宇宙人なんだかはっきりしろと、どうでもいい突っ込みをいれてやる。
「とりあえず……スポーツドクターかなぁ……無理ならイタリア語の通訳か……」
 本当は、咲野さんの将来を心配している余裕もないのかもしれない。
 咲野さんを支える存在云々の前に、僕自身が自立した男にならなければ。
 一足早い来年の目標を心に刻みながら、僕は咲野さんに回した腕に力を込め、
「……あんまり遠くにいかないでよ、咲野さん」
 そっと、彼女の唇を奪った。




【エピローグ】



 イヴの日はその冬にしては珍しく寒い夜だった。
「ごめんね、色気のないクリスマスで」
 はにかむ彼女の吐息が、白く凍りながら風に流されていく。
 遮る物のない河原沿いの道には強い風が吹き付けていた。遅い冬の訪れと共に一斉に散った木の葉が、僕らの側を渦を巻いて流されていく。僕らの距離は自然と縮まり、意識することなくつないでいた手はいつのまにか、彼女のフィールドコートの大きなポケットの中に収まっていた。
「まぁ、色気のないのは最初から分かってるから」
「えへへ、そうだね」
 顔を見合わせて笑う。
 あと数時間でクリスマスを迎えようという頃。街ではいよいよこれからがクライマックスという時間。
 僕と咲野さんは二人並んで、時間を気にしながら駅へと向かっていた。

 クリスマスイヴの日曜日。僕は咲野さんの家に招かれていた。
『相原君……今夜は、家の人、誰もいないの』
 そんな妄想が一瞬頭をよぎらなかったといえば嘘になる。
 が、
「あ、相原君。あがってあがって」
 実際の所はというと、咲野さん家は誰もいないどころか家族総出のクリスマスパーティー(正確にはその準備)の真っ最中であった。
「まだ準備が終わってないから、ちょっと待っててね。お父さんしばらく相原君の相手お願い」
 そんな訳で、僕のクリスマスは居間の隅に追いやられたお父様の世間話の相手という大役を果たすところからスタートした。
 かなり気まずかった。
 パーティーが始まったら始まったで、お母様の遠慮のない質問攻めの矢面に立たされ、味方のはずの咲野さんのあけすけな回答に絶句し、そして笑顔なのに目の奥が笑っていないお父様の視線に冷や汗を流し、孤立した状況に立たされて赤くなったり青くなったりしていた。お母様と咲野さんには悪いが、どんな料理が出て、どんな味だったのか、正直余りよく覚えていない。
 そんな嵐のような時間も、それでも過ぎてしまえばあっという間だった。
「明日夏、まるでシンデレラみたいねぇ」
 お母様の言葉はまさにその通りで。
 全日本女子代表チームの強化合宿に参加中の咲野さんは、昨日の練習が終わってからこちらに戻り、そして明日からの練習に備えて今夜また合宿地に向かうことになっていた。

「ごめんね、こんな慌ただしくて」
 そんな考え事をしていた僕の無言を誤解したのか、咲野さんはもう一度、ごめんね、と繰り返した。
「いや、そんなことないよ。十分楽しかった」
「ほんとに? お母さんうるさくなかった? お父さん何か変なこと言ってなかった?」
 機嫌を伺うように僕の顔を見つめる咲野さん。不安げな表情が胸の奥をざわつかせる。
「大丈夫だよ。咲野さんがお母さん似だってことがよく分かったし、お父さんには……娘さんをくださいって、何度か言いそうになった」
 ふくれあがる愛おしさを押さえ込んで、冗談交じりに彼女を安心させる答えを口にする。
「あはは、なにそれ。いっそ言ってくれれば良かったのにー」
「ははは」
 二人の笑い声が白い霧になって、僕らの間をつないだ。
「僕のほうこそ、ごめん。咲野さんに無理をさせちゃってるみたいで」
 ひとしきり笑った後で、僕は言った。
 自惚れるわけではないけど、こんな強行スケジュールを組んでまで輝日南に戻ってきてくれたのは、たぶん半分以上、僕のためで。
 無理をしてまで自分のために帰ってきてくれるなんて、そんなことが嬉しくないわけがない。
 でも彼女は今、将来のかかったトライアルの真っ最中だ。彼女は気楽に言っているけど、この合宿の成果が咲野さんの今後に影響してくるのは間違いない。
 そのためには、オフの日は体を休めてもらいたい。クリスマスに彼氏に会いに行くという行動自体が周囲にマイナスにとられはしないかも心配だ。
 嬉しい反面、申し訳ない。それが、僕の正直な気持ちだった。
 だが。
「……んー?」
 咲野さんは眉根を寄せて難しい顔をした。
 いっしょに試験勉強をしたときによく見た表情。
「難しいことはよくわかんないけど、私はただ、あなたに会いたかったから帰ってきただけだよ」
 彼女はそういって、にっこり笑った。

 そうか。忘れていた。
 咲野明日夏は、もっとシンプルな女の子だったっけ。 

「相原君、ちょっと来て」
「えっ?」
「ちょっと、寄り道」
 咲野さんは握ったままの手を引いて、唐突に土手を駆け下り始めた。肩に掛けた咲野さんのスポーツバッグが踊る。
 星の明かりだけを頼りに夜の土手を駆け下りるのはかなりスリリングだった。斜面の終わりにたたらを踏んで、そのままの勢いで河原の中ほどまで出る。
「あ、危ないよ咲野さん。怪我でもしたら……」
「平気平気。このへんは子供の頃から通ってるから、目をつぶっても下りられるもん」
「あ……」
 その言葉で、ここがどこだか思い出した。
 夏の終わり、今よりずっと遅い夕日を浴びながら二人で特訓をした、河原のグラウンド。
「懐かしいね……まだ半年もたってないのに」
「うん……相原君」
 何、と答える前に、背中が温かなものに包まれた。華奢ではないけど細い腕が体の前に回されて、柔らかな感触が押しつけられる。
「……咲野さん?」
「……えへへ。ちょっとだけ、甘えさせて」
 彼女はそういって、回した腕にもう少し、力を込めた。
 僕はただ立っていることしかできず、黙って夜空を見上げる。
 澄んだ夜空には月もなく、都会にしては珍しいくらいの星々が見えた。
「……相原君」
 耳元でささやく息がくすぐったい。
「……何?」

 私ががんばれるのは、あなたがいるからだよ

 心臓を鷲づかみにされて、しばらく動けなくなる。
 体に回された彼女の手に、自分の手のひらを重ねる。
 身をよじるようにして彼女の方を向き、
 肩越しに不自由なキスを交わす。

 背中からでなければ、この両手で咲野さんを抱きしめられるだろう。
 けれど僕は、その腕を二度とほどけないかもしれない。
 彼女の側にいたい。彼女を自分の腕の中にとじこめてしまいたい。
 咲野さんもまた、この腕から離れられなくなってしまうことを恐れているのだろうか。それは自惚れ過ぎだろうか。
 ……でも、それは甘えでしかないことを知っている。僕も、咲野さんも。
 あぁ。どうしてこう、二人とも物わかりが良すぎるのだろう。

「……待っててね。すぐ戻ってくるから」

 いや、僕が、いつか、追いついてみせる。
 その言葉を胸に、僕はもう一度、彼女の唇をふさいだ。






初出
2006年07月16日●*kimikiss*Asuka_title"咲野明日夏編「旅の途中」
2006年12月25日●*kimikiss*Asuka13"Cinderella in the Christmas"






あとがき/にゃずい

まずはSS転載許可を快く承諾して頂いた、ぎーち(戯市朗)さんに感謝の言葉を。

2006年初夏、キミキスに出会いネットゲーム漬けだった自分が、
イラストを描こうと思った事は、今思うとなんと奇跡的だったのだろうか。
その奇跡(恥ずかしいセリフ禁止)は、自分の周りの環境によるものも大きかったかと思う。
なんとも優しさに恵まれた時代だった。その頃存在した名のあるギャルゲーが
キミキスオンリーだったのもまたファンが一箇所に集まった理由だと思う。
今はファンが分散し、アマガミというゲームに拘る人達が減った事もある。
当時は、キミキスをメインにおくサイトはそれは沢山あったものだ。


なので今、もう一度キミキスの話をしてみたいと思う。

自分は決定的にキミキス好きになったのが、ぎーちさんの描くキミキスの後日談を描いたSSだった。
特に咲野明日夏というキャラをここまで好きになった理由は、この世界によって自分が思った、
彼女のキャラが補完された事にあったと思う。
私の思う咲野明日夏は「カラ元気でも、元気は元気!」というキャラであり、その心の弱さに注目してくれる人たちが当時少なかったことが不満であった。
全編を通して描かれる、ぎーちさんの明日夏というキャラはシンプルだ。
だがシンプルがゆえに、悲しい時には大声で泣くという、私が彼女のキャラに求めた事がしっかり描かれてた。
明日夏はとても弱い子である。その弱さは、瑛理子と双璧だ。ゲーム中でも、修羅場イベントで
彼女の弱さが垣間見えるはずである。元気で太陽のような彼女が見せる弱さ。自分が明日夏が本当に好きなのはきっとここなのだ。



”私ががんばれるのは、あなたがいるからだよ”



2010/2/27


文庫版あとがき/戯市朗

まずはこのような素敵な形で、埋もれていた作品を再び世に出していただいたにゃずいさんに感謝を。

この作品は、ボーイッシュな女の子に、着慣れない女の子らしい格好をさせてみよう、という動機で書き始めたような記憶がある。
後から見れば、スカート購入のシーンはクライマックスへの伏線なのだが、当時はそんな計算は何もせず、ただ頭から順番にモノガタリを繋いでいっただけだった。
それだけに、例の奇跡の瞬間を思いついた時は、ちょっとした感動だった。身震いする思いだった。冬場の空気を感じようと、真夏に冷房ガンガンかけてせいかもしれないが、その時のことは今でも鮮明に覚えている。

当時書きためたキミキスSSはそれなりの量があるが、中でも一番記憶に残っているのがこの作品だ。
それはひとえに、にゃずいさんに描いていただいた明日夏のイラストゆえである。(当時のにゃずいさんの絵はまだ丸くなかった!)
自分の創作物が、他人の手によってさらに創作されるという体験は、それはもう刺激的で、この出会いがなければ、あの先キミキスSSを書き続けることは無かっただろう。他人から認められることで、当時一時的に社会との交わりを断っていた自分にとって、執筆こそが自分の存在意義だった。
今、作品を読み返してみると、行間から僅かに、そうした切実な自己顕示が漏れてくるようで面はゆい。いっそそのまま、物書きへの道を進んでしまえばよかったのに、と、5年ほど前の自分を振り返って思ったりするのだ。

キミキスは恋愛シミュレーションと銘打っているが、実際の所は「青春シミュレーション」だ。
同級生と笑い、泣き、悩み、楽しむ時間をゲームに仮託して追体験する。
キスというインパクトにカモフラージュされているが、キミキスの真の魅力は、女の子達との何気ないおしゃべりである。
その会話が、攻略対象にすぎない女性キャラの存在を深くする。会話によって厚みを増してると、
「こんな時、彼女らはどのように動くだろう」
「こう聞いたら、なんて答えるだろう」
という疑問が生まれる。その疑問を自分の想像力で埋め、また他人の想像力に影響されて彼女の像をより鮮明にしていく。こうした二次創作の連鎖性により、より複雑な人格を得た彼女は、恋愛という小さな枠にとらわれず、青春というより大きな枠組みの中で動き始める。そして、彼女との関わりの中で、我々は恋愛にとどまらない、青春生活を追体験できる、という訳だ。

とりとめもなく書き進めたが、そんな感じで、ただの攻略対象でなく、脇役でもなく、自分の青春をまっすぐ一生懸命生きている明日夏を、すぐ隣で見守っているように感じてもらえたら、自分としてはしてやったりです。


2010/3/05


→NEXT 「さよなら輝日南高校」水澤摩央編






「旅の途中」は、ちょっとオマケ劇場以前に書かれたものです。
ただ、偶然にも本編おまけディスクである「ちょっとおまけ劇場2」に収録された明日夏の後日談
「オレンジデイズ」とゲーム本編をつなぐ話として成立しています。
さらに「オレンジデイズ」の後がゲーム本編のエピローグだと思われますので、まさにタイトル通り
「旅の途中」なのだと思います。この偶然もまた奇跡?


「Cinderella in the Christmas」サブタイルにもなっているのが、今回のSSのエピローグ部分です。
実はこれ、当時は独立したSSして「旅の途中」から半年後に書かれたものでした。
ですが正式な続編との事もあり、今回の再掲にあたりエピローグの部分として本編に組み込むカタチとさせてもらいました。


明日夏は左利き?これ、なぜか自分の中では頑なに守られているルールです。
そして、悪友(親友になりうる?)である瑛理子も左利きであり、
この二人の握手は左手同士になるというのが、捻くれてていいなぁと感じています。
ぎーちさんの明日夏は左利きとして描かれており(このSSを読んだ時に面識はなかった)、
同じ感覚である人が居たことに、当時とても嬉しく思った記憶があります。


ヴァージニアサンタクロース
The New York Sun (1897) "Yes, Virginia, There is a Santa Claus"
翻訳者:大久保ゆう
http://web.archive.org/web/20080302154040/
http://www.alz.jp/221b/aozora/there_is_a_santa_claus.html
より一部引用。引用元は改行なし



ブブーン、ドドドーゥ!内、アーカイブス
当時の感想●http://abiesfirma.sakura.ne.jp/bubu-n/log/eid271.html
明日夏は左利き?●http://abiesfirma.sakura.ne.jp/bubu-n/log/eid454.html
小説 -
2010.02.27 Saturday :: comments (9) :: -

Comments

こんな素晴らしい愛に満ちた作品があったとは

読んでて胸の鼓動がどんどん早くなっていく自分に驚きとともに、ここまでの作品なら当たり前だという思いに行き着く

キミキス発売当初はこんな作品たちが溢れていたんだろうなぁ

二次創作物というものに本格的に手を出したのが去年からという遅咲きだったので、非常にもったいないことをしていたととっても後悔

そんな私にこんな機会を与えてくれてありがとうございます

そして、キミキスという作品の凄さを改めて実感した日となりました
おしんこ :: 2010/02/27 02:00 PM
 JESUS...すごいです。目の毒。絵も、字も。
 ストーリーラインはシンプルなのに、その狭間にいつの間にか踊り出す感情の波に、後半、不覚にも飲みこまれていました。書き手の人となりがチョイと透けて感じられるのも御愛嬌。
 正直、今更ながらにSSというものの独特の機微、難しさに打ちのめされているオイサンには、なんだかとても遠いもののように感じます。イヤほんと難しい。
 オイサンも、こんな純粋にキラキラした、誰かを虜に出来るようなモノが描けたらと思います。精進、せねばなあ。刺激刺激。
 ありがとうございました!
ikas2nd :: 2010/02/27 08:33 PM
ああ……懐かしいですねえ……
おお……ハラショー……

ここまで愛されている咲野明日夏というキャラクターは幸せ者ですし、
これだけ見事に文章で、そして絵で愛を表現出来る方々が正直羨ましいです。

ごちそうさまでした。
はるなま :: 2010/02/28 01:08 AM
 懐かしいですねぎーちさん。
 サイトが閉鎖されてしまって、今でもとても残念でなりません。お元気なのでしょうか?

 僕はエビコレ版でキミキスを初プレイしたんですが、購入のきっかけにはぎーちさんのSSとにゃずいさんのイラストがあったと思います。
 ここまで見事に魅力を書く&描くお二人と、書かれる&描かれる明日夏も、また。

 キミキスの時のSSサイトの盛り上がりに比べて、アマガミは正直届いていないなあ・・・というのが実感です。

 自分も精進していきたいです。
wible :: 2010/02/28 09:39 PM
おぉ、なんと懐かしい作品なのでしょう。

.......そうあれは、中2の年始の頃でした。
キミキスのラジオを偶然見つけ、
ソフトを買い、
小説を読み漁っていて、この作品に出会い、
そして、このサイトに出会ったのです。
あぁ、なんと運命的なのでしょうかねぇ。
この出会いに感謝しなければ。
シルバー :: 2010/03/01 02:04 AM
■おしんこさん
長い間ヒット作に恵まれなかったコンシューマー恋愛シミュレーションを、唐突にまた引き上げたのがキミキスでした。
それによって当時は、キミキスというコンテンツにみんなが集まってすごい盛り上がりをみせました。
そんな時代を懐かしむと共に、当時の熱みたいなものを忘れないでおきたいと言う
個人的な欲求の為に、今回アーカイブスとしてBU文庫を始めてみました。
長い間親しまれたせいか、”恋愛”という原点を見失いがちなキミキスですが
当時感じたことをこうして残すことで、新しい発見があるかもしれません。
そんなわけで、かなり長いシリーズになると思いますが、時間が許す限りお付き合いして頂けると光栄です!


■オイサン
アマガミから入った人達からすると、キミキスというコンテンツは旧作以外何者でもないですが、
まだキミキスが最新作だった時、みんなが熱狂して楽しんだ記憶はこうして残ってます。
webという移ろいやすい世界の中で、埋もれて行ってしまった良質な作品を、
こうして再掲することでシリーズの熱量は点ではなく、線であってほしいと思ってます。
自分にとってシリーズ化している作品にとって最も大事なものは、そのゲームと共にすごした時間です。
その時その時、一番輝いた時間こそかけがえのない思い出だと考えてます。
そんな思い出を、自分だけのものとしてPCの中に眠らせておくのは勿体無いと考えて
今回再掲というカタチでみなさんの前に出せたことがとても嬉しいです。


■はるなまさん
明日夏というキャラは、自分にとっては特別であるのですが、
それと同時にキミキスキャラ、キミキスの世界すべてが自分にとっては特別です。
ので、これを封切にすべてのコンテンツを再掲できればいいなと考えております。
イラストを新規に起こしてるので時間がかかるかもしれませんが長い目でみてやってください!


■wibleさん
キミキスはわかりやすく人に薦めることができたので、アマガミの時よりも横のつながりが深かった気がします。
そんな横のつながりの中でも自分の中では忘れられないものが、キミキス・ショートストーリーズだったので
サイトの閉鎖前に保存しておいてよかったですw

そして、キミキスをぎーちさんのSSや自分のイラストでプレイして頂けたことは本当に嬉しいです。
アマガミは残念ながら、線でなく点としてのファン活動が目立ちます。
ラブプラスやドリームクラブなど、2009年はギャルゲー復活の年だった為、先陣をきったアマガミは埋もれてしまった感があります。
ただ、それ以上にアマガミというゲームは、一人一人の想いが他方向に向いた為に、
中々他人の世界観を受け入れがたいという状況にもなってしまった気がします。
ゲームとしては素晴らしいものだったアマガミですが、それに対してユーザー側の成熟度がまだそこまで到達できていなかったような。
線でない以上、中々アマガミの良質なコンテンツには出会いにくいかもしれませんが探せば山のようにでてくるはずです。
そして、アマガミもキミキスもTLSも自分の中でまだまだ思い出のゲームでありながら現役であります。
そういう意味では、PS3でTLSシリーズのアーカイブスが待たれるのですが…。
PSPでTLS2とかやりたいよーw

■シルバーさん
そういう横のつながりが、キミキスの時は一番輝いてた気がします。
本当に楽しい時間でした。回りみんなで一斉に盛り上がり、色んな人が参加し、チューニングアップ&ポップ♪の放送された約二年間、毎日がお祭りのようでしたw

今もまだそんなくすぶってる熱を、こうしてサイトで公開できたことはとても素敵なことです。
この調子、夏コミはキミキスでやっちゃいますのでよろしくお願いします!
にゃずい@管理人 :: 2010/03/04 12:54 PM
PSPでTLS2とかやりたいよー
森下茜はもらうぜー
ポッキン♪
裡沙たんとニャンニャンしたいよー :: 2010/03/04 02:23 PM
■にゃずいさん
うーん、そっかあー……。
『キミキス』は、そんなにも盛り上がってたんですねー。

仕事に溺れていた2006年に、私が取りこぼしたものは想像以上に大きかったみたいです。
ちょっと哀しい。

>自分にとってシリーズ化している作品にとって最も大事なものは、そのゲームと共にすごした時間です。
>その時その時、一番輝いた時間こそかけがえのない思い出だと考えてます。

これについては全く同感です。
シリーズ作品というのは自分の時間の流れ・歴史にシンクロして、
その時々の道標のように複雑な感情とともに寄り添ってますよね。

 あのときはこんなことがあって、
 丁度このゲームをやっててこんなことを思った、
 みたいに。

ゲーム作品の、殊にスタンドアロンの良いところは、
例えばリリースから十何年と言う時を経て世代の隔たった人間が触れたとしても、
当時の人間と均質の「体験」が再現されることだと、私はずっと考えてきました。
そしてその「全く同じ体験」を通じて、感情を共有し、なにかを語り合えるところにこそデジタルでパッケージされた作品群の良さがあるのだと。

……如何せん、『キミキス』については私は全くのノータッチでこそなかったものの、
あまり素直になり切れない感情でしか触れられなかったものですから
淡い記憶としてしか残せませんでした。
ですがこういう作品の存在によって、その時代の強い輝きと熱を感じ取ることが出来ることはまさに、
そうした良さを体現されているものだと思います。

次作を期待して待つとともに、
自分にも出来ること、残せるものを考えたいと思います。

長くなってすみませんw
ikas2nd :: 2010/03/06 11:12 AM
■ぎーちさん
わざわざあとがき書いてくれてありがとうね〜。
本文の方に転載しておいたので、これで安心!(?)

■裡沙にゃん
オレはオカノンをもらうぜ!
てか、本当にアーカイブスで出ないかねー。
あと、キミキスもPSPに移植してほしいなぁ…。

■ikas2ndさん
同じような思いを共感するというのは、作品そのものには出来ても
実際のところリアルタイムで接してないと”空気”までは共有できないないんですよね。
なので今回はその”空気”感も共有できるようにと再掲させてもらいました。
これで二次創作が盛り上がったという、当時のことが少しでも伝わってくれれば幸いです♪
にゃずい@管理人 :: 2010/03/14 09:10 PM

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