ブログ名

<< 小説:●*kimikiss*Mao 「さよなら輝日南高校」 :: main :: 小説:●*kimikiss*Megumi 「とどかない背中」 >>

小説:●*kimikiss*Yuhmi 「Monotone」

キミキスショートストーリズ・第3巻 星乃結美編
●*kimikiss*Yuhmi

Monotone


星乃結美編。
キミキス c2006 ENTERBRAIN,inc.
 
【01】



 冬の朝、学校は単色の世界に包まれている。

 北の国のとある私立高校。時刻はもうすぐ七時半になろうというところ。
 彩りに欠ける校内を歩くのは、黒色の制服に身を包んだ生徒達。男子は黒の学ラン、女子も黒のロングワンピース、その上に学校指定の黒灰色のコートと、これまた色の乏しさに拍車をかけている。それでも数さえそろえば多少なりとも賑わうものだが、冬の間は運動部の朝練も自粛され、この時間学校に用事のある生徒はごく僅かしかいない。
 校門から続く並木道は全て葉を落とし、道の脇には黒ずんだ雪の塊があちらこちらに残っている。がらんと広がった空は、今にも降り出しそうな一面の曇天。夕方まではもつと天気予報のお姉さんは言っていたけど、下手に雪が早めに降り出した日には、またコートを泥まみれにする生徒が続出することになるかもしれない。
 一昨日、お尻をしたたか打ち付けて、笑顔に涙をにじませていた彼女の顔を思い出す。これを口実に今日も彼女の手を引いて帰ろうと、私は一人頬をゆるめる。クールビューティー(単に無表情と人は言う)が信条の私にあるまじき失態。人通りが少なくてよかった。

 校舎に入っても、寒さは衰えない。肌を切るような風は吹き込まないが、代わりに一晩かけて冷気を溜め込んだリノリウムの床が、上履きの薄い底から体温を奪ってゆく。白い息を吐きながら足早に階段を上り、教室のドアをくぐると、そこは暖かなあかりと空気に満ちた別世界である。
「おはよう、久山さん」
「おはよ、星乃っち。今日も早いね」
 教室には、私より一足先に登校していた同級生が一人、コートとマフラーをつけたまま、鉢物の観葉植物に水を差してまわっていた。
 星乃結美。三ヶ月前に転校してきた、内気で本好きな女の子。
「今日こそ一番乗りだと思ったのに、星乃っちにはかなわないな」
「うふふ。早起きだけが取り柄ですから」
「なにそれ、オバアサンみたい」
 あはは、と声を揃えて笑う。もっとも私は、彼女の取り柄が他にもたくさんあることを知っている。
「何か手伝うことある?」
「うーんと、後はこの花瓶を洗ってくるだけだから、一人で大丈夫よ」
「じゃあ、一緒に行こう。もうちょっと部屋があたたまらないと、コート脱ぐ気にもなれないし」
 たとえば、後から来る人のために部屋を暖めておく優しさ。殺風景な教室に緑を持ち込み、毎日欠かさず手入れする心遣い。人のいやがる仕事を進んで引き受ける責任感の強さ。そしてそれを決して誇らない謙虚さ。
 洗い場で花瓶の水を流し、水道の水で中を洗う。代わると言い出す間もなく結美は冷たい水に両手をさらし、白い指先はあっという間に真っ赤になった。顔をわずかにしかめながらも黙々と花瓶を濯ぐ。その姿をただ横で見つめるだけしかできない自分がいらだたしい。
 結美に気を寄せる男子は決して少なくない。転校当初から何か理由をつけて話しかけてきたり、ちょっかいをかけてきたりということが絶えなかったし、たまにこうして花を贈ってくる奴がいる(教室に飾られて終わりだけど)。でも、私が見る限り、うちのクラス、いやうちの学校の全ての男の中にも、彼女の繊細な心をつかめるような奴はいない。それに彼女には……
 と、不意に結美はびくんと体を震わせた。あわてて花瓶を流しに置き、赤い両手をあたふたと泳がせる。
「電話?」
「うん、そうなの。でも、手が、ハンカチが……」
 慌てる彼女の様子を心の奥で楽しみながら、しょうがないなという表情を作って自分のハンカチを広げ、結美の両手を包む。
「あ、ありがとう久山さん」
「いいから、電話電話」
 もっと丁寧に拭いてあげたい、できることなら冷え切った指先を私の手で温めてあげたい。だがこの状況ではそうもいかない。後はやっておくからとゼスチャーで彼女を追いやり、結美はぺこりと頭を下げて廊下の先まで小走りで駆けていった。
 残された私は、乾いた雑巾で花瓶を軽く拭い、逆さに振って水気を切る。結美ならしばらく乾かしてからしまうところだろうけど、残念ながらおおざっぱな私はそこまで気を回すつもりはない。使った雑巾を濯いで固くしぼり、最後に両手を洗う。
 結美の赤い携帯が毎朝この時間に鳴ることを私は知っている。着信も、発信も、メールの送受信も、履歴のほとんどがたったひとつの名前で埋められていることも知っている。そして、真面目な彼女が校則を破ってまで、なぜその携帯を肌身離さず持ち歩いているかも。
 水にさらした両手が痛い。

 彼女が教壇に立たされ、転校生として紹介されたときのことを思い出す。
 自己紹介の声は緊張と不安で消え入りそう。その清楚で庇護欲をかき立てる彼女の姿に教室中の男子が色めき立ち、(ほとんど聞き取れなかった)紹介が終わって席に着くと、今度は刺激に飢えた女子(と一部男子)が彼女を取り囲み質問攻めにしていた。
 転校生がやってきた朝のよくある風景。私は特に輪に入ろうともせず、その状況をぼんやりと観察していた。
 だが、どうしてだろう。自分を取り囲む人垣に困惑する彼女と偶然目があった時、何故か彼女が私に助けを求めているという錯覚が生まれ、自分の中で何かのスイッチが入ってしまった。
 傍観者だった私は突如、子羊を守るべく番犬に変貌し、普段滅多に出さない指導力を発揮して狼の群れを追いやっていた。狼共は常日頃から周囲と関わることに消極的だった私の変貌ぶりにあっけにとられ、そんなうちに転校生騒ぎはうやむやになった。
 なんのことはない。『清楚で庇護欲をかき立てる』彼女の魅力にいちばんやられてしまったのは、他ならぬ私だったというわけだ。
 その時の反動からか、いまでも男子共の間には『星乃とお近づきになりたければデコメガネ(わたしの蔑称だ)にお伺いを立てること』というありがたくない不文律ができあがっているらしい。実際何人かから取り次ぎを頼まれたことがあるが、どれも片っ端から袖にしている。面倒ではあるが、他人の権力を傘に威張り散らすのはとても楽しい。

 話がそれた。

 その日の放課後、ある意味彼女をクラスの中で孤立させてしまったという負い目もあり、私は彼女をお茶に誘った。最初の数十分は、引っ込み思案と人嫌いの会話ということで、端から見たら『共通の知り合いを待つ赤の他人』に見えるくらいぎこちないものだった。
 ところが、結美が前の学校で図書委員を務めていた本の虫であり、私は時代錯誤の文芸部で部長をやっているという話になったあたりで会話のペースは急に上がり、好きな作家や最近の話題作の話で意気投合、その日が出会って初めてだというのに閉店時間まで話し込み、あっという間に仲良しになってしまった。(遅い帰宅後、結美は心配した両親からお説教を受けたそうだ。)
 クラスになじんだ後も、土地勘のない彼女に地元を案内したり、文芸部の季刊誌に書評をお願いしたりと、私と結美は「親友」と呼んで差し支えない関係が続いている。いままで一匹狼的なスタンスが多かった私にとって、結美から時々頼られることは新しい喜びであったし、彼女の一番の友達であることを誇りに思っていた。
 ……そこで満足していればよかったのだ。

 そいつの存在を知ったのは偶然だった。
 ある日の放課後、文芸部の季刊誌の編集作業で部室に籠もっていた私は、ロッカーに辞書を入れっぱなしにしていたことに気がつき、気分転換も兼ねて教室に取りに戻ることにした。
 試験明けの校舎は人気がほとんどなく、私は無人の廊下を一人歩いた。窓から差し込む冬の早い夕日が、教室という教室をでたらめに明るい黄色一色に塗りつぶし、どこか非現実的な世界を作り出していた。
 だからだろう。
 教室の隅で逆光の中にたたずむ彼女の姿を見つけたとき、その印象的な雰囲気に当てられてしまった。恥を捨てて告白するならこの時、私はこの空間の中で彼女と二人きり言葉を交わすシチュエーションを思い浮かべ、心が躍った。
 一応文芸に関わる者として、女性同士の恋愛を取り扱った作品はたしなみ程度に読んでいたし、特に不快感も感じていなかった。本気で同性に恋愛感情を抱くつもりはないが、一度くらいお遊びをしてみるのも悪くない。根が真面目な彼女だから、さぞかしからかい甲斐のある反応を見せてくれるだろう。
 そんな軽いおふざけのつもりだった。だが、彼女の横顔を見たとき。
 そこに光る一筋の雫をみたとき。
 私の心は、悪い冗談を秘めたそのまま、凍り付いてしまった。

『みんな仲良くしてくれるし。毎日が楽しいわ。』
『友達もできたのよ。小説を書いている子なの。』
『うん、私は大丈夫。』
 耳元の赤い携帯を両手で大切に包み、いつになく楽しげな声で近況を話す結美。でもその様子は、ちっとも大丈夫には見えなかった。

『ねぇ……電話でもいいの。キス、してほしいの。』

 さみしい。心細い。今すぐ会いたい。
 結美は求めることのできない助けを必死になって押さえ込んでいた。

 そんな弱さに気づいてあげられなかった鈍い自分に腹が立った。打ち明けてくれなかった他人行儀な彼女に腹が立った。痛みを和らげてあげられるのが今一番近くにいる私ではなくて遠くにいる誰かであることに腹が立ち、その誰かにさえ気丈に振る舞う彼女に腹が立ち、側で見てもそれがちっとも隠し切れてないことに腹が立ち、最後の精一杯の甘えに腹が立ち、そのひと言で自分の踏み込む余地がないことを思い知らされて腹が立ち、それなのに物陰で聞き耳を立て続けている自分に腹が立ち、いつの間にか私は廊下を駆け出していた。
 校舎の端まで全力疾走し、運動部の連中の視線を一身に集めて上履きのまま校庭を突っ切り、下校する生徒を追い越して並木道を駆け抜け、学校の敷地のはずれにある東屋にたどり着く頃には頭がクラクラしてチアノーゼってこんな感じなのかと思ったりして、力尽きてベンチに突っ伏して自分の馬鹿らしさが可笑しくなって泣きながら少し笑った。



【02】



 うちの家はその名も「久山荘」という、江戸時代から続く由緒正しい温泉宿である。明治から昭和にかけては文士と呼ばれる先生方がたびたび逗留していたそうで、そうした作家が『宿代が払えずに置いていった(祖父談)』というゆかりの品が今でもかなりの数残っている。
 そんな品々を前に祖父が語った思い出話が、私と文学の出会いだったりする。堅苦しい文体よりも先に、スランプ時の奇行だったり酒癖の悪さだったり、そんな私的なエピソードに接していたものだから、古典や名作と呼ばれる作品にも抵抗なく入り込むことができたのだ。
 出会ってしばらくした頃にその話をしたところ、結美は大変興味を示し、それがきっかけで私はたびたびに彼女を家に誘うようになった。謙虚で大人しくつつましやかな結美は、八十を超え未だ健在な祖父をはじめ、家族全員に大いに気に入られている。
 私の部屋では、好きな本や作家のことから、学校ではちょっと話しにくい世間話、この街のおいしい店のことや、彼女の以前住んでいた街の話など、いろんな事を話した。結美の彼氏についてもさりげなく、それでいてしつこく聞き出したし、こっそり携帯を覗いたのも、私の部屋でだった。

 冬の日暮れは早い。
 その日も学校帰り、結美は久々に私の部屋に遊びに来たが、他愛もない話に花を咲かせるうち、窓の外には既に夕闇が迫りつつあった。
「あ、星乃ちゃん。もう帰っちゃうの?」
「はい、晶さん。遅くまでおじゃましました」
 駅まで結美を送っていこうと玄関に向かう途中、本館から戻ってきた和服姿の晶が私たちに気づき、小走りに駆け寄ってきた。
「ごめんねー何もかまってあげられなくて。お夕飯呼んであげたいんだけど、明日から連休でしょ? 表も裏もバタバタしちゃってて。落ち着いたらまたいつでも遊びに来てちょうだいね」
 男勝りで豪放磊落、街を歩けば『姉御』と慕われる長女の晶は、三十余名の従業員の指揮を執る我が宿の若女将であり、また家族の中でも一番の結美ファンでもある。ちなみに次女の朱美は東京の旅行代理店に就職して家を離れており、私は三人姉妹の年の離れた末っ子だ。
「あ、そうだ。星乃ちゃん五分くらい待てない? もうすぐお迎えの車出すから、ついでに駅まで乗っていきなさいな」
「でもお忙しいのに……」
「でも男共に送らせる方が危険な気がするけど……」
 二人そろって、でも別々の理由で遠慮する。
 私が心配しているのは。
 年末年始、結美はうちの旅館で臨時のアルバイトをしていた。紫紺の着物にフリルのついたエプロンという(晶姉自慢の)喫茶スペース用の制服は結美にばっちり似合い、大女将である母をして「息子がいれば間違いなく嫁にもらっていたのにねぇ」と言わしめた程であった。だが。その艶姿は客のみならず若い男性従業員をも虜にし、繁忙期の裏方は一時大混乱に陥った。晶の鉄拳介入がなければ正月の久山荘は血で血を洗う抗争劇の舞台になっていたかもしれない。(学校の男子といい、物静かな女性に弱い輩が多いのは土地柄だろうか。)
 そんな連中に「誰か結美を送っていけ」などと口にした日には、帰り道に変質者に出くわすよりはるかに危険な状況が結美を襲いかねない。
 しかし晶は、私の心配を一蹴した。
「なに言ってるの。こんなおいしい役、うちの若衆なんかに任せる訳ないじゃない」
 それはつまり晶が自ら車を出すということで。
「でぇとーでぇとー」と口ずさみながら袖を振り振り去っていく後ろ姿を見送りながら、争奪戦を最後の勝者が晶であったことを、私は今更ながら思い出していた。


 私たちが駅に着く頃、駅前のロータリーには雪がちらほらと空に舞い始めた。
「送ってくれてありがとう。また来週ね」
「うん。また来週」
 駅の明かりに浮かぶ黒い制服のシルエットは途中で何度も振り返っては手を振った。そのたび私も手を振って応え、その姿が雑踏に消えるまで、車の外で彼女を見送った。
「吸ってもいい?」
 『久山荘』と横に書かれたバンの助手席に乗り込んだ私に、晶は尋ねた。見ると手にはフィルムを切ったばかりのタバコの箱があり、すでに窓を開けて準備をしている。
「晶姉、吸ったんだ」
「高校の頃に遊びではじめて、旦那と出会って止めたんだけどね」
 伝統あるお嬢様学校のOGであるはずの晶はさらりと告白し、一本くわえてシガーソケットで火をつけ、軽く吸い、少しむせた。
「んー、久しぶりだから体がびっくりしてる」
 そんなことを言いながら二口目の煙を窓の外に吐き出す。
「明日から休みだし、星乃ちゃん誘ってどこか遊びにいってきなよ」
 結美と話していたときのハイテンションな晶とも、従業員に指示を出す凛々しい晶とも違う、家族にしか見せない落ち着いた雰囲気。
「ん……でも、みんな忙しいのに私だけ出かけられないし」
「気を回さなくてもいいよ。バイトの子も来るし。なんならお正月みたいに、星乃ちゃんもバイトに誘えば?」
「……それに、結美、明日から彼氏が来るんだって」
「……そっか」
 そうなのだ。
 明日、結美はやっと、彼に会える。
 そのことを結美はいつになく弾んだ口調で教えてくれた。
 娯楽の少ない街でのデートコースを相談され、彼を両親に紹介するかしまいかと何度も意見を聞かれた。
 私は、いつものような冗談も、茶化すことなく、ただ笑って結美の問いかけに答えていた。

 しばらく静かに煙を吐いていた晶は、つらいね、とつぶやいた。

「……いつからバレてた?」
「何となく。まあ、伊達に女子校で八年育ってないしね」
 我慢しなくていい。
 一人で悩まなくていい。
 それが分かって、安心して。
 煙草の香りに気が緩んで、胸の底にに閉じこめていた秘密が一粒、まぶたからこぼれて、膝の上に落ちた。
「お姉ちゃん、私、どうすればいいのかなぁ」
 つい、昔の甘えた口調になってしまった私を、晶姉は煙草をくわえた口元を動かして、少しだけ笑った。
「奪ってでも押し倒してでも、星乃ちゃんのこと自分のものにしたいと思うなら。まわりの全部を敵に回して、彼女のこと今以上に幸せにできるって自信があるなら」
 そこで言葉を止めた。
 車の灰皿で煙草をもみ消し、蓋を閉める。
「でも、星乃ちゃんとの関係を含めて、今の世界を失うのが怖いなら、一番の友達で我慢するしかないよ」
 晶は、フロントガラスの向こうに落ちる雪を眺めている。
「苦しいだろうけど、その痛みは多分、時間が解決してくれる」
 雪はガラスに当たって一瞬で溶け、表面をうっすらと曇らせていた。

「さて、いらっしゃったかな。亜紀ちゃん傘とって」
 見ると駅前の街灯の下、ロータリーを見回す二組の老夫婦がいる。晶は車のドアを開け、運転席から飛び降りた。和装の作法からすればあり得ない動きだが(いやそもそも和装に草履で車の運転っていいのだろうか)、晶がやるとそれなりに様になるから少し悔しい。
「ねぇ、さっきのって、自分の体験から来るアドバイス? それとも女子校で培った経験論?」
 後部座席の床にあった傘を手渡しながら私が聞くと、晶はふふふんと意地悪く笑って答えた。
「ノーコメント」


 降り始めた雪は夜の間に勢いを増し、翌日は朝から大雪だった。
 ニュースは朝から気象情報をメインに取り扱い、天気図と各地の中継映像と交通機関の情報を十五分おきに繰り返し流していた。フロントの電話はキャンセルの連絡で頻繁に鳴り、それに伴う手配を捌きながら「こればっかりは誰を恨む訳にもいかないしねぇ」と晶姉はぼやいていた。
 天気を見越して前日から訪れていた客も、宿の送迎を利用して市内に出かけていく組は一部で、多くの人が宿の中で時間をもてあまし気味の様子だった。温泉宿とはいえ一日中湯につかっているわけにもいかず、そうした客は喫茶スペースや土産物売り場に流れてくる。今日の宿は切れ目のないだらだらとした忙しさが続いていた。
 私も喫茶用の制服を着てウェイトレスの真似事をしていた。飲み物を作り軽食を運び、時にはお客の話し相手になり、仕事はそう忙しいわけでもなかったけれど、なにかやることがあってそれに集中できるのは有り難い。悩んでも仕方のない時は手を動かしているに限る。

 愛想笑いを貼り付け続け、日頃使わない顔の筋肉が痛くなり始めた頃。マナーモードにして帯に挟んでおいた携帯が突然震えた。不意打ちで脇腹をくすぐられて、なんとか表情を変えまいと努力しながら慌ててバックヤードに駆け込んだ。
 私の携帯は親兄弟との(主に宿内での)連絡用にもたされているもので、コミュニケーションツールとしての役割をほとんど果たしていない。時々教室で『月の通話料が五万を超えた』とかいう話を耳にするけど、何を話せばそれだけの時間会話が続くのだろうと、かえってうらやましく思ってしまう。
 そんな物を今日に限って肌身離さず持ち歩いていたのは、それはもちろん、もしかしたら結美から連絡があるかもしれないという淡い期待からだった。
 のろけ話でも声が聞ければ。隣の男のためであっても頼りにされれば。そんな女々しい自分が情けなくはあったが、それでも実際液晶に『着信:星乃結美』の文字が出ているのを見ると、現金な私はそれだけで少し幸せになってしまう。アルバイトの女子大生らが興味の視線を送ってくる中、少し抜けますとスタッフに断って厨房をすり抜け裏庭に飛び出し、気持ちを抑え通話ボタンを押す。

『もしもし、星乃です‥‥』

 電話から聞こえてきたのは、不安に震え、今にも泣き出しそうな結美の声だった。
 冷たい外の空気が、浮かれた心を急激に醒ましていく。

『どうしよう‥‥相原君が帰っちゃう‥‥』



【03】



 話を聞いたとき、最初に思い浮かんだのは喧嘩別れの事だった。久しぶりに会った恋人が互いの気持ちの温度差に気づいて
……という話の筋だ。しかし、結美の声音からはそのような雰囲気は感じられないし、昨日(かなり強引に)見せてもらったメールのやりとりにも喧嘩の予兆を感じさせるような内容はなかった。
「落ち着いて。何があったのか順番に話して」
 結美の動揺が逆に私の意識を冷静にする。
 
 結美の彼は、今日の昼前に出発する飛行機の席を予約していた。予定なら昼過ぎにこちらに到着するはずだったその便は、目的地、つまりこちらの空港の天候不順のため二時間遅れての離陸となった。が、雪の勢いが増したため目的地への着陸を断念、近隣の空港も同様に悪天候であったため、元の空港に引き返す旨のアナウンスが今、空港に流れているという。
 電話向こうの結美から聞き出した状況は、だいたいそういうことだった。
 そこまで聞き出しながら私は、電話片手に中庭に面した軒下を走り、従業員用の休憩室に走り込んでいた。休憩室には厨房の板さん達が三人休憩中で、テレビは再放送の刑事ドラマで二人目の被害者が何者かに背後から襲われていたが、それを断りなしザッピングして一番まともな情報を流している公共放送に変える。私の表情からのっぴきならない状況が伝わったのか、板さん達は驚いた表情を浮かべたものの何も言ってこなかった。
 地方局のアナウンサーは、繰り返し大雪への警戒を呼びかけていた。雪はどうやらこれからさらに勢いを増すらしい。
「星乃っち、今空港? そっちはなんて言ってる?」
『今日中の再開は難しい、って‥‥。私、どうしたら‥‥』
 一ヶ月の結美を思い出す。
 冬休み直前、バイトの都合で彼が年末に来れないことがわかった時、結美は「仕方ないよね」と寂しそうに笑いながら、それでもひどく気落ちしていた。あらかじめ会えないことを知らされていて、電話やメール、クリスマスプレゼント等、彼からのあらん限りのフォローがあっても、彼女は完全には立ち直れていなかった。結美を宿のバイトに誘ったのは、一人でいるよりも気が紛れるだろうという、様子を見かねた私なりの気遣いでもあったのだ。
 結美は今、目前まで迫った再会の機会を突然奪われ、空港でたった一人途方に暮れている。彼がまだ空の上なら、電話もメールも通じないだろう。彼女に手を差し伸べられるのは、助けを求められた私だけだ。
 落ち着け。諦めるな。
 そんな実のない励ましを続けながら、同じ事を自分にも言い聞かせ、私は必死に頭を働かせた。でも一介の女子高生にできる事なんてたかが知れていて、焦って空回りする思考にさらに焦りがかき立てられる。
 だから、休憩室にどんぶりと箸を手にした晶が現れた時、私は彼女が救いの女神に見えた。女神様にはずいぶん罰当たりなことを考えたものだ。
 「亜紀ぃ、あんた喫茶の仕事さぼってこんなところで何やってるの?」
 厨房で茹でてもらったうどんに喫茶のカレーを足してもらい即席のカレーうどんにするのが、忙しいときの晶のお決まりの昼食である。どうやらそこで私が現場放棄したことを聞きつけたらしい。
「手伝ってくれるのは有り難いけど、勝手に動かれたらバイトの子に示しが‥‥」
「お願い晶姉! 助けて!」
 切り出そうとした小言を遮り、まくし立てるように状況を話す。板さん達は気を利かせて聞いて聞かぬふりを続けてくれたが、たとえそうでなくても頭の中は結美のことだけしかなくて、全く気にならなかっただろう。説明が終わると、晶姉は尋ねた。
「それで、あんたは何をどうしたいの?」
 それは宿を仕切る晶が、混乱する現場をまとめる時によく使う言葉だった。慌てるな落ち着け、目標が決まればおのずと手段は決まる。
 ただ、今のこの言葉は、ただこの状況を解決するためのものではない。
 私は結美の一番の友達になりたいのか。それとも。
 晶は昨日の話の続き、今後の私たちの関係について、私の目指すものを聞いているのだ。
「私は‥‥」
 結美の彼氏が来れなくなりそうだと聞いたとき、それが幸運とは露ほども思わなかった。あの放課後の姿、そして冬休み前の姿。辛くてたまらないのに、でもそれを周囲に気遣わせまいとする結美の姿を思い出し、そんな彼女は二度と見たくないと思った。彼女の悲しみにつけ込むなんて論外だ。私が望むのは結美の幸せで、それは私の存在では叶えられない。

「私は結美を、彼に会わせてあげたい」
「‥‥それでいいんだね?」
 迷いはなかった。たとえ相手の一番大事な人になれなくても、私の一番大事な人を放っておくことはできない。
 晶は頷くと、おもむろに懐から携帯を取り出して短縮を呼び出した。呼び出しの間、少し切なげな表情を見た気がしたが、相手が出るといつもの調子で歯切れよく話し始める。
「あぁ朱美? 私。いま大丈夫? いや大丈夫じゃなくてもちょっと調べて欲しいことがあるんだわ。大急ぎで」
 電話の相手は、東京にいる次女の朱美らしい。旅行代理店勤務ということだから、連休も出勤しているのだろうか。
「星乃ちゃん覚えてる? 冬休みにうちにバイトに来てた、亜紀のお友達。その星乃ちゃんの彼氏がこっちにくる途中、飛行機が引き返しちゃったらしいんだわ。今から電車で向かう最短のルート、大急ぎで調べて。えーっと向こうは‥‥」
 晶は結美がいた街から一番近い空港の名を告げた。返事を待つ間、片手で行儀悪くカレーうどんをすすっている。暇のあるときに食べておけというのが女将生活で身につけた晶の習慣であり、汁物の飛沫を決して服に飛ばさず麺類を食べることができるのが、長い女子校生活で身につけた彼女の特技の一つである。
「あ、分かった? ちょっとまってね亜紀あんた今から言うからメモとりなさい」
 そう言うと晶は、朱美が言うルートをそのまま復唱した。あわてて近くの紙にペンを走らせながら、自分の携帯もまだ結美に繋がっていることを思いだし、私も同じようにルートを復唱する。朱美→晶→私→結美、そして向こうの彼氏と、期せずして伝言ゲームが始まる。
「今のところ電車が雪で止まりそうっていう話はないのね? そう。ありがとう。星乃ちゃんの彼氏の写真? わかった撮っといてあげるからあんたもたまには帰ってらっしゃい。そのダンディな独身上司連れて。それじゃお留守番がんばってねー」
「えっと、今いったルートでこっちまで来れるみたいだから、彼に伝えてあげて。もう一回言うね」
『うん‥‥ありがとう。』
 電話の向こうの結美は、こちらの混乱の間に幾分落ち着きを取り戻したようだった。なにより、遅くなるとはいえ、彼と会えるという望みが繋がったのが大きいのだろう。
 と、自分の携帯を切った晶が、今度は私の携帯をひったくって話し始めた。
「星乃ちゃん? 私ーあきらー。なんか大変なことになっちゃったみたいだねー。でも大丈夫だからねお姉さんが絶対に彼氏に会わせてあげるから。今からそっちに迎えに行くから、その場で待ってるんだよ。それじゃ後でねー」
 そこまでほぼ一方的にしゃべって、携帯を私によこした。
「あ、えーと‥‥そう言うことだから。そっちで待っててね」
『でも‥‥。旅館も忙しいんじゃないの?』
「いいから。どっちにしろ、晶姉がああいいったらもう止まらないし」
 そう言って、最後にルートの再確認をしてから、電話を切った。そのころにはもう晶はうどんを完食していて、
「十分で車出すから、亜紀は着替えておいで。健ちゃん、私の車にチェーン巻くの手伝ってくれる? あと勝史郎さん悪いんだけど若い子に急ぎでおにぎりか何か握ってもらってくれないかな? 私は母さんに事情話して久々に働いてもらうから」
 空のどんぶりを片手にてきぱきと行動をはじめ、聞くとはなしに事情を聞いていた板さんたちも即座に応える。こんな事を考えている場合ではないのかもしれないけど、こんな職人さん達の雰囲気が私は大好きだ。
 戻ったら何か御礼をしなきゃな。そんなことを考えつつ私は部屋に向かった。


「あんたは星乃ちゃんについていてあげなさい。時間になったらまた迎えに来るから。平気に見えるけど必死に気を張ってるはずだから、会えるまできっちりフォローしてあげなさい」
 空港で結美をピックアップし、そのまま彼女の自宅まで私たちを送り届けた後、晶はまた宿へと戻っていった。母さんは「久々に腕が鳴るねぇ、なんなら晶も羽伸ばしてきなさいな」みたいなことを言っていたが、さすがに十分な引き継ぎもないまま現場を放りっぱなしにするわけにもいかないのだろう。こういう私はあれっきり職場放棄だ。戻ったらみんなに謝っておかないといけない。
 結美の家に上がるのは久しぶりだった。多くの人が出入りする私の家とは違い、家族の繋がりが伝わってきそうなこぢんまりとした家で、出迎えてくれたご両親も、結美の性格を納得させるような温かな方々だった。事情をあらかじめ話していたのか、それとも何とはなしに雰囲気を察してくれたのか、お母さんが最初にお茶を出してくださっただけで、お二人は私たちをそっとしておいてくれた。
 私たちは結美の部屋でまず、晶にもたされていたお弁当を開けた。彼が順調に電車を乗り継いだとしても、こちらに着くのは夜の九時を回る予定で、それまでに私たちがへばってしまう訳にはいかない。恋愛には思いの外エネルギーを使うのだ。
 板さん達の準備してくれたお弁当はしっかり二人分あって、おにぎりの他、小芋の煮っ転がしや小松菜のごま和えなどのお総菜、蕪のお漬物までついていて、急ごしらえにしてはなかなか豪華な内容だった。(後日このお弁当の御礼に結美が手製のケーキを差し入れ、それがまた騒動を引き起こすことになる。全くの余談。)おにぎりがしっかり火事場の丸結びだったあたり、さりげなく私たちを応援してくれているようで嬉しかった。

 無機質な白で統一された、寒々とした空港のロビーで結美の姿を見つけた時、私は思わず駆け寄って彼女を抱きしめていた。そうでもしないと消えてしまいそうなくらい、普段に増して頼りない彼女を私は想像していたのだ。
「大丈夫。相原君、絶対に来てくれるって言ってくれたから」
 だが予想に反して、結美はずっとしっかりしていた。覚悟を決めた女の強さとでも言うのだろうか。多少は無理をしているようだったが、彼女は笑顔さえ見せた。
 元々彼女は強かったのか。それとも、頼れる物のない場所での生活が彼女を強くしたのか。地味で目立たず、おとなしいとしか思っていなかった結美が見せた思わぬ芯の強さに、私は少なからず驚いた。

 話の中心は当然というか彼のことで、私は半年前のアルバムを見せてもらいながら、今まで聞いたことのない、二人の話を聞いた。
 高校に上がって一年半も同じクラスだったのに、話をするようになったのは転校の一ヶ月前だったこと。ファーストキスは校舎裏だったこと。結美が意外と大胆で熱烈なアプローチを仕掛けた事。(特に二人きりのプールで泳ぎながらキスした話には、驚きを通り越して思わず吹き出してしまった)。
 ほとんどが結美と彼ののろけ話だったが、私は二人を羨ましいと思いこそすれ、不思議と心穏やかに聞くことができた。
 九時前、再び迎えに来てくれた晶の車で、私たちは駅へと向かった。
 改札の外で待つのももどかしく、私たち二人は入場券を買い、静かなホームのガラス張りの待合室で、温かい缶入りの緑茶を握りしめ、彼の到着を待った。
 電車は予想通り雪の影響で遅れていた。彼は電車が一駅通過するたび、律儀にメールや電話をかけてきて、私はその愛情ぶりをねたに結美を小悪魔だの悪女だのとからかった。
 昼から考えると半日も彼女と二人きりだったことになるが、その間話題に困ったこともなかったし、緑茶の缶が冷たくなっても、私はその時間を長いとは感じなかった。

 ホームに特急列車が到着すると、結美は電車が止まるのも待たずに待合室から駆けだしていった。列車の明るい窓をひとつひとつ確かめ、彼の姿を探している。あるひとつの扉の前で彼女の表情がぱっと明るくなるのが、遠くからでも分かった。
 やがて彼女が待つ扉が開き、疲れた表情の乗客に混じって一人の男の子が出てきた。結美のアルバムでも見た、あまりぱっとしない、どこにでもいそうな男の子。
 彼と結美ははしばらく見つめ合い、男の子は照れくさそうに、結美は恥ずかしそうに、しばらく言葉を交わす。見ている方がもどかしくなるような時間の後、結美は体ごと彼にぶつかるように抱きつき、二人は唇を重ねた。
 乗客らは足早に階段の下と流れていき、列車も扉を閉じてホームを去った。
 やがてホームはまた、次の列車を待つ静かな空間に戻る。それでもなお、二人は静止した風景の一部となったまま、長い長い抱擁を交わしていた。
 ホームに吹き込む大粒の雪が二人を周囲を舞ってゆく。
 その様子を私は待合室のガラス越しに見ていた。



【04】



 いくぶん小降りになった雪が湯気の中をちらつく中、私と結美は宿の露天風呂につかっている。幸い今の時間他のお客はおらず、女湯は二人の貸し切り状態だった。
 私の三十センチ湯煙越しにはタオル一枚で隠された結美の体があるわけで、実際脱衣所で垣間見た結美の体は女の私から見ても綺麗で、ドキドキしたり劣等感を感じたり無性に何かに感謝したくなったりで、私自身久しぶりの本浴場だというのにちっともリラックスできない。
「久山さん、今日はありがとう」
「えっ?」
 だから、彼女の言葉も最初はまるで耳に入っていなかった。ぎこちなく視線を向ける。トレードマークのヘアピンを外し、髪をアップにまとめ頬を染めた結美の顔が間近にあって、もうそれだけで鼓動のペースが一気に跳ね上がってしまう。

 結局、宿に帰り着けたのは夜の10時を回るころになった。
 駅から帰る車の中では、晶の強引なすすめで結美も彼氏もうちの旅館に泊まることに話が決まっていた。雪道の運転がてら携帯片手に(よい子はまねしてはいけません)客室の準備と、私を含め3人分の夕食の手配、そのまえにまず一風呂というところまでてきぱき段取りを決めてしまうあたり、老舗旅館の若女将の本領発揮だ。
 一方、今日は久々に現場に出てご機嫌な母はというと、
「あらあら、結美ちゃんたらこんな男前な彼氏つきだったのねぇ。道理でうちの若衆の誘いにもなびかないわけだわ。あなたもほら、今夜はかわいい彼女と布団を並べて寝る? それとも並べるのは枕だけで十分? こんなチャンス滅多にないんだから、男だったらバーンと決めちゃいなさいって」
 到着早々そんな言葉で若い二人をからかっていた。いや半分本気だったかも知れない。
 そんなお茶目な一方で、私たちが結美の家にいる段階で既に、今夜は娘さんをお預かりする旨、(肝心なところはうまくぼかして)彼女のご両親に営業用の丁寧な挨拶の電話をきっちり済ませていたりする。今日は我が家の女衆の手際の良さを改めて思い知らされた。
(後日この事を話したら、母は「晶のダンナを捕まえたときはこんなものじゃなかった。あんたもとっとといい男連れてきな、その場でくっつけてやるから」とのたまった。雪国の女は強い。)

「飛行機が戻ったって聞いた時、私もうどうしたらいいか分からなくて、久山さんしか相談できる人がいなくて……」
「あ、あぁ。気にしなくていいって。ウチの家、こういった事は慣れてるから」
「ううん。電車のことも、お部屋のこともそうだけど、あの時久山さんがしっかりしろって言ってくれなかったら、私また、彼……相原君に会うのまた諦めていたかもしれない……だから」
 湯船の中に沈めた私の左手に、結美の手が重なる。
「本当に、ありがとう」
 目の前の彼女の笑顔を正視することができず、あわてて顔を逸らせてしまう。
 久山さんしか相談できる人がいなくて。
 久山さんが言ってくれなかったら。
 彼女の言葉を反芻する。それは私が一番欲しかった言葉のはずだった。私が数ある友達の一人ではなく、結美にとって特別な存在であるという確かな証。
 だが皮肉なことにそれを手に入れたのは、彼女の一番大事な存在を認めてしまった後だった。あれほど望んだ言葉のはずなのに、やっと手に入れたその輝きは、どこか色あせていた。
「いいって。それより、久々に会う彼なんでしょ。私なんかに遠慮せずに、思いっきり甘えていちゃついて、困らせてあげなよ。なんなら夜這いかけて逆に押し倒しちゃって……」
 湯煙の向こうの照明が滲んで虹色に見えるのは、眼鏡を外しているからだろう。声が震えてしまうのは、寒空の下で長湯してるもんだから風邪をひきかけているのかもしれない。こんな歪んだ顔を見せちゃいけない。結美は幸せのまっただ中にいるんだ。つらくても、切なくても、ここで水を差しちゃいけない……。
「ごめんね」
 重ねられた指が、そっと私の手を握る。
「受け止めてあげられなくて、ごめんね」
「え……」
 頭の中が今度こそ真っ白になる。
 何故。どうして。あれほど必死で隠し通してきたつもりなのに。
「いつ……から……」
「なんとなく、かなぁ。私のこと時々真剣に見てたりとか、手を繋ぐときにちょっと前とは違ってたり。最初は私の意識のしすぎかなって思ってたんだけど……」
 でも、優しくて、心配りのできる彼女だから。
 私の気持ちを察しても、気づかないふりをして、今ある関係を大切に守ってくれていたのか。
「ちゃんと分かったのは、今日、空港から電話したとき、電話の向こうで晶さんとお話してたのが聞こえて」

『それで、あんたは何をどうしたいの?』
『私は結美を、彼に会わせてあげたい。』
『……それでいいんだね?』
 あー、そうか。あの時私の携帯は繋ぎっぱなしだったんだ。
 大失敗だね。こりゃ。

 ひと言で言えば振られたということになるんだろうけど、どうしてだろう。ここまでくるとむしろ清々しくて、気を抜くと笑ってしまいそうだった。
 目を閉じ、息を止めて、頭のてっぺんまで湯船に潜る。
「ひ、久山さん?」
 慌てた声をお湯の中で聞きながら、子供の頃によくやったように、ゆっくり十まで数える。 もう、大丈夫。たぶん。きっと。
 勢いよく浮かび上がる。驚いて短い悲鳴を上げる結美。その細い肩に無理矢理抱きつき、ここぞとばかり彼女の柔らかさを堪能する。
「きゃっ! ちょ、ちょっと!」
「黙れこの幸せ者め! ちょっとはその幸せをよこせ!」
「やだっ、くすぐったい!」
 派手に湯しぶきを巻き上げ、存分にじゃれ合い、大きな声で笑った。
 温泉宿の娘にあるまじマナー違反の数々を犯した後、私は湯船の縁に腰を下ろした。ほてった体に少し冷たいくらいの夜風が気持ちいい。
「ねぇ。結美」
「なぁに、……亜紀ちゃん」
 何気なく彼女を名前で呼ぶと、結美もまた私を、名前で呼び返してくれた。
 好きな人に名前を呼んで貰えることがこんなに嬉しいなんて。
 その喜びが私を大胆にする。
 今夜だけは彼女の優しさに甘え尽くそう。そう覚悟を決めた。
「……キスって、どんな感じ?」
「えっ、ええっ」
 突然の質問にうろたえる結美。
 自分の汚れた欲望を実現させるために、私は慎重に結美を追い込む。
「駅でラブラブだったもんねー。もう周りの視線なんて全く気にならないってかんじで。五分以上チュッチュしてたんじゃない?」
「わ、私、そんなにしてた……?」
 今度は結美が湯船に沈む番だった。鼻の上まで隠れてぷくぷくと泡を作っている。その表情が可愛くて、決心が鈍りそうになる。でも、追いつめられているのは私の心も同じで、もう止まることはできなかった。

「ねぇ、私もキスしていい?」

 できるだけあっさりと、自然を装って、汚れた望みを口にする。
 冗談と受け流されればそれでもいい。
 叶うのならば、一番の思い出にしよう。
 そして明日からはまた、結美の一番の友達に戻るのだ。
 そんな覚悟の上でのひと言。

 数時間にも思える沈黙の後、
「いいよ。キス……して」
 返ってきたのは、予想と違わぬ、優しい言葉だった。

 結美は湯船の中から私を見上げ、目を閉じる。
 その瞬間、緊張と、喜びと、愛おしさと、良心の痛みが、同時に胸の中で暴れ回った。鼓動がハウリングを起こす程の大音量で耳の奥に響き、視界は結美以外、正確には結美の唇以外すべて、真っ白に塗りつぶされた。
 ぎしぎしと音が鳴りそうなくらいぎこちなく背中を曲げ、ふるえの止まらない指先をのろのろと彼女の肩に伸ばし、かがみ込むようにして自分の顔を結美に近づける。さっきの沈黙が数時間なら、彼女の唇にたどり着くまでには夜が明けてしまいそうだ。
 優しく。
 できる限り優しく。
 空っぽの頭に最後に残った理性の欠片でそれだけを考える。
 最後の瞬間、目を固く閉じ、結美の唇に私の唇を重ねた。
 結美の唇は同じ女の子のものとは思えないくらい柔らかく、そして温かかった。
 不意に温かなものが耳の後ろに触れ、思わず目を開いてしまう。拒絶されたのではないかという恐れとは裏腹に、彼女の顔は変わらず、互いの息づかいが感じられる距離にある。頭に添えられた結美の両手は、私のキスを彼女が受け入れてくれた証だった。緊張が解け、穏やかな気持ちで満たされた私は、再び目を閉じた。
 言葉には決してできない気持ちを、たった一度だけ伝える。
 人の心とこんなに優しく繋がることができるなんて、今まで知らなかった。

 繋がったときと同じくらい慎重に、唇を離す。
 ほぼ同時に目を開き、互いに黙ってしばらく見つめ合う。
「……ふふふ」
「……ははは」
 沈黙に絶えきれず、先に笑い出したのは結美だった。
 理由もないのに笑いが止まらず、私は湯船に飛び込んだ。派手に飛沫が飛び、結美が笑って顔を背ける。私はそのまま対岸まで泳いで向こう岸にタッチし、背泳ぎで結美の元に戻ってきた。
「結美ってばキス上手ー。そうやって彼氏のことメロメロにしてるんだー」
「亜紀ちゃんも素敵だったわ。ふふふ」
「妙な格好で迫っちゃったから、体は冷えるし、腰がいたくなっちゃった。ははは」
 しばらく笑って、じゃれ合って、のぼせてふらふらになる頃、二人で湯から上がった。

 あの日夕日にかけられた魔法は、お姫様の最初で最後のキスでやっと終わりを迎えた。



 冬の朝、学校は白一色の世界に包まれていた。

 時刻はもうすぐ七時半になろうというところ。普段なら数えるほどしか人のいない並木道には、雪かきにかり出された職員や運動部員達が、時間がたって固くなった雪と格闘している。色とりどりのジャージやフィールドコートが動き回る様子はなかなかにカラフルだ。がらんと広がった空は一面の晴天。週末まで天気は崩れないだろうと天気予報のお姉さんは言っていた。
 雪かきの一段の中に、体に不釣り合いなスコップを片手に当然のように参加している結美を見つけて、雪を蹴って駆け寄る。
「おはよ、結美」
「おはよう、亜紀ちゃん」
 他の生徒は動きやすく汚れてもいい服装に着替えて作業をしているのに、結美は制服姿のままだった。動いて熱くなったのか、近くの木にコートとマフラーがぶら下がっている。
 私は手袋を外し、寒さで赤くなった結美の両頬に手を当てた。
「あー、あったかい」
「結美頑張りすぎ。そんな格好のまま手伝ったら後で風邪ひくぞ」
「でも、今日は体操服もってきてなくて……」
「そんなときは無理に手伝わなくてもいいんだって。ほら、一度教室行くよ」
 手を引いて結美を連れ去る私を、周りの男子運動部員たちが恨めしそうな表情で見ていた。

 連休最終日の夕方、私は結美と一緒に、彼を見送りに空港に行った。
 二人とは昼過ぎに駅前で待ち合わせたのだが、そこで彼氏と待っていた結美は何故か制服姿だった。地味な黒のワンピースは休日の駅前ではかえって目立ち、私が来る前に同級生に何人か声をかけられたらしい。これで結美に彼氏がいることがクラスに公になったわけで、彼女の身辺は少しは静かになるだろう。彼氏がそこまで計算して二人の存在をアピールしていたかどうかはわからない。
 なんで制服姿なのか、と聞くと、
「彼に今行っている学校を見せてあげたかったから」
 つまり二人は最後の日を、無人の学校でのデートで過ごしたらしい。
「本当に見せたかったのは制服姿の自分じゃないのぉ?」
「誰もいないのを良いことに、学校で大胆なこといっぱいしたんじゃないのぉ?」
 そんな私の茶々に、結美はいちいち顔を真っ赤にして否定した。彼氏はといえば平然を装っていたものの不自然に目を逸らせたりして。間違いなく一つや二つの「大胆なこと」をやってきたに違いない。
「しかし、何も見送りの時にこんな地味な格好で来なくてもいいのにねぇ」
 空港での搭乗待ちの時間。
 私は気を利かせて席を外そうとしたのだが、結美は一緒にいて欲しいとはっきりと口にした。「亜紀ちゃんにはお世話になったし、それに遠慮しなくてもいいくらいベッタリだったから」と笑っていたが、本当は二人きりになってしんみりしてしまうのが怖かったのかもしれない。
 そんなわけで私たちは三人並んで空港のベンチに腰掛けて、とりとめのない話をしていた。
「いや、この制服、結構派手だと思うよ」
 私の何気ない言葉に、彼はこう答えた。
「黒と白なんて大胆な色遣いで、こんなクラシックなデザインの制服、滅多にないし」
「そうかなぁ。結美のアルバム見たけど、そっちの学校の制服もうちなんかよりずっと可愛いじゃない。タイの色遣いとか」
 まぁ、可愛い可愛くないはわからないけど、と前置きし、
「一見地味に見えるけど、モノトーンの色遣いってすごく印象強いよ。『白や黒の中には、全ての原色が詰まっている気がする』って。誰かがどこかで書いてた気がする」
 彼はそう言った。それって、私が貸してあげたエッセイの中ででてきたんだよね。あぁ、そうだっけ。
 結美と彼の会話を聞きながら、わたしはちょっとした敗北感を味わっていた。
 おとなしく、控えめで、目立たない結美。私はそんな彼女を放っておけなくて、守ってあげたいと思っていた。
 でも彼は多分、その一見地味な雰囲気の中に実は、明るさや強さ、激しさ、積極さが隠れていることを私なんかよりずっとよく知っていて、だから遠く離れても結美のことを信じていられるのかもしれない。
 何となくではあったけど、今の彼の言葉にはなんだか結美に対する自信みたいなものが感じられて、それが少し悔しかった。
「それじゃ、久山さん。ほんとにありがとう。星乃さんのこと、これからもよろしく」
 だから別れ際、そんな言葉をかけられたとき、
「どういたしまして。油断してると結美のこと奪っちゃうから気をつけなさいよ。もし浮気なんかして結美のこと泣かせたら、そっちまですっ飛んでってボコボコにしてやるんだから覚悟してなさい」
 と、どうしようもない憎まれ口を叩いて彼を送り出してやった。困ったような苦笑いひとつでかわされたのがまた、何とも悔しかった。
 別れ際結美は彼と長いキスを交わし(私は慎ましくその様子から目を逸らし)、彼は搭乗ゲートへと消えていった。
 こうして、結美の短い三連休は幕を閉じた。
 
 校舎の中は相変わらず冷え冷えとして、足下からどんどん体温を奪われていく。教室に向かう途中、結美は大きなくしゃみを立て続けに二回して、「誰かが悪い噂をしているのかな」と照れくさそうに笑った。
「どうせ相原君の事を知った連中でしょ。今日はきっとその話でもちきりだから覚悟しておきなさいよ」
 あー、うん。と結美にしては珍しく歯切れの悪い返事を聞きつつ、私たちは教室に入った。空調のスイッチを入れ、とりあえず鞄を机に置く。
 そこに、僅かな振動音が鳴った。
 気がつけばいつもの時間。遠く離れた彼氏は今日も律儀にモーニングコールをかけてきたのだろう。
 結美はちらりと私を見ると、ポケットに手を伸ばし、赤い携帯を取り出すと、
「はい、星乃です。……うん。おはよう」
 特に離れることもなく、会話の内容を気遣うこともなく。その場で電話を取った。
「今学校。今日は雪かきを手伝っていたの……。ふふふ、大変ね。……うん。ちゃんとお礼しておくから。いま久山さん、隣にいるけれど代わる?」
 いいからいいから、と手を振って遠慮する。
 他に誰もいない教室の朝のひととき。
 結美が彼と交わす優しい言葉を聞きながら、私は少しだけ近くなった結美との距離を、静かに楽しんでいた。







初出
2006年6月25日●*kimikiss*Yuhmi_title"星乃結美編「Monotone」”







あとがき/にゃずい

「Monotone」の主人公は、オリジナルキャラの久山亜紀である。
結美の転校先を生活を描くにあたり、亜紀という新しい視点を作ることにより語り口を変えている。
同姓愛をテーマにするという趣味全開でありながら、しっかりとした続編となっている結美編。

この話は亜紀の物語である。と、見せかけて実のところそうではない。
「Monotone」は、第3者の視点を借りた事によって、光一と結美の絆をはっきりと描く作品なのだ。
そして最も嬉しいことは、光一がしっかりと成長していることだろう。
ぎーちさんの描く光一は、基本的にゲーム本編よりもしっかりとしている。
ゲームとは違う性格のキャラではなく、その延長として成長したという説得力があるのだ。
それは全ての話に言える事なのだが、光一というキャラを上手く昇華したことによって
彼のSSは非常の読みやすく、心に落ちるものとなっているのではないだろうか。
その辺りが最も色濃く出る話が「Monotone」の裏話だ。必読である。

さて、本編の話に戻るが、この話は非常に不思議な作品である。
百合要素、亜紀というキャラの結美への愛情、そして光一と結美が幸せになってほしいと思う反面
自分の事も振り向いてほしいという葛藤。
最終的に彼女の落ち着く先は二人を見守るというポジションだ。亜紀は恋愛に関してはかませ犬にすぎない。
しかし、なんと潔いかませ犬なのだろうか。亜紀というキャラはこの作品のテーマとして存在はしてないが、
間違いなくこの話の主人公だ。ヒロインではなく、主人公なのだ。
そういう意味でキミキスSSの中で最も異色な続編である。

私は、光一が自分ではないとして、亜紀と同じように「大切な人が幸せになる」という事を祈れるような、
そんなちょっと離れた位置からヒロインを見るのも面白いと発見させられた。
そうやって少しだけ、違う角度からヒロインとお近づきになるのも楽しいものだ。

みなさんの心にはどう響いただろうか?



2010/3/11



→NEXT 「届かない背中」栗生恵編
小説 -
2010.03.11 Thursday :: comments (7) :: -

Comments

初めて戯市朗氏のSSを読んだのがこの作品で。
ええ、正直に言えば百合要素に惹かれて、ですw

途中から相原と結美がちゃんと会えるかどうか本当にハラハラしながら読んだ記憶が。

好きな人と結ばれる幸せもあれば、
好きな人が幸せになっている樣を見て感じ取れる幸せもあるという事で。

イメージは……デコは予想外でしたw

次回はあの話ですか……
はるなま :: 2010/03/11 11:53 PM
いや〜、何回読んでもいいなぁ〜。
自分も戯市朗さんの作品はこのSSから読み始めました。百合要素があるとは思ってなかったんで、「おお…」となったのはいい思い出w
亜紀の姉、晶が頼れるカッコイイ女性なのが個人的にかなりツボです。

このSSに限らずですが、タイトルの付け方がとても印象に残る感じなのは自分だけでしょうか?

BU文庫、これからも楽しみにしてます。
匠 :: 2010/03/12 08:42 PM
ゆ、百合だー!
百合ものを初めて読みました。

こ、これは中々いいじゃないか・・・
世の中は広いなぁ・・・ふふふ・・・

転校先の星乃さん
やっぱり強いなぁ
でもその強さは光一あってのもの
その脆さがまた、彼女に惹きつける魅力となっているのでしょうね。

そんな星乃さんに惚れちゃった亜紀ちゃん
ある日現実を見せ付けられる
星乃さんとは叶わない、光一には敵わない、と

晶姉が見せた少し切なげな表情、そうたらしめたのは何だったのであろうか。

でも星乃さんは幸せだ。そして星乃さんの幸せは亜紀ちゃんの幸せとなる。
星乃さんは亜紀ちゃんのキスを受け入れた、それは受け入れられないことへの贖罪であったのだろうか。

遥か彼方に見えた星乃さんと亜紀ちゃんとの間の距離、少し縮まったその距離は、しかし永久に零にはならないのだろう。
アキレスと亀に譬えられるなら、その距離が広がらないことが救いとなろうか。

星乃さんと光一の結婚式、亜紀ちゃんはどの立ち位置にいるのかな
おしんこ :: 2010/03/12 10:39 PM
 オリジナルの人物をすんなり話に馴染ませているのがなんとも。ここまで自然に書けるのは凄いな、と。
 ゲームの中というある意味完結している世界に要素を加えるんですから・・・。一歩間違えばというのは多くのメディアで多々ありましたが(苦笑)、光一と結美と亜紀の3人の物語、あっさり自分の中に入ってきました。

 自分はどうしても生み出す力が弱いですね・・・。
wible :: 2010/03/13 12:33 AM
■はるなまさん
亜紀はデコメガネっていうのが愛称(?)だから、絶対にデコッパチだと思ってたw

ぎーちさんのSSの中では最も趣味に走ってるシナリオなんですが、不思議とバランスがよく
上手く結美と光一の距離感を描いている面白い話ですよねー。

百合要素については、ほら、あす×えり推奨派の自分的には喰いつかない理由がなかったですね。
しかしまぁ、中身は濃い濃い。軽い気持ちで読み出すと顎にパンチを喰らって脳震盪みたいな。
そんな話です。

■匠さん
はるさんと違って逆に百合要素を知らずに読み出したんですね。
だったら途中から「え?え?」ってなりますよねーw
晶は非常にかっこいいキャラなのですが、過去に何があったのか。
まぁ、人間なにかしら誰でもあるものですが、これが物語だと話は別。
やっぱり知りたくなっちゃう。どうしてあんな男前になったのかとかも。

それにしてもタイトルのつけ方はいつもすごく上手いですよね。
とくに今作は、制服のカラーと結美の性格に例えるという絶妙な使い方がたまらんです。

■おしんこさん
適度な目覚めにしておかないと、後々悩むことになるので気をつけてw

今作は、とにかく亜紀視点なので、光一と結美の強さが前面に出てる作品になってますよね。
光一視点ではわからなかったけど他人から見たら、この二人には絶対に干渉できない事がわかります。
そんな意味でも、この話は次回に続く大事な話になってるので、栗生編も是非に!

上でも書きましたが、晶の過去にはきっと亜紀と同じ様な体験があったと思います。
その上であれだけ強くなったなら、亜紀にもその可能性があるわけで、
結婚式には是非、ふっきれたまおねーと肩でも組んでお祝いソングでも唄ってほしいです。

■wibleさん
完結してる世界に、もともと存在しないキャラを出すというのは大冒険です。
とくに今回は、オリジナルキャラばかりの中に結美が放りこまれるので
それこそ一歩間違えば…ってことになりそうだったのですが、結美のケイタイという
キーアイテムのおかげで、輝日南とつながってる感じが、ゲームと地続きになってる雰囲気を
出してるのではないかなぁとか思います。
亜紀の話はこれで終わりですが、まだまだ結美の物語は続いて行きそうです。
本当はこの後の話もまだ読みたい気分ですねw
にゃずい@管理人 :: 2010/03/14 03:16 PM
んー。やっぱすげえ。
ここまでの3本の中ではこれが一番ですね。

正直、私はSSってものをなめていたんだと、ここまでの3本を読んで気付かされました。
オリジナルには無い、独特の機微に溢れている。

それはキャラや世界が基本的に確立されているということだけではなしに、
文章や物語を組み立てる上で、
美しく、読みやすく、効率の良いもの(読者に最もよく伝わるよう)に仕上げていくための手順が
オリジナルとは大きく異なっていて、
戯市朗さんは知ってか知らずか、
それを見事に実践されているように思います。

私は百合モノに殊更興味があるわけではないですが、
それを差っぴいても、とてもシンプルで美しいストーリーラインと、
ライトな中にも本格派の重みを感じさせる文章力・表現の多彩さを感じて
とても興味深く、楽しく、一本の「恋愛モノ」として読むことが出来ました。

イヤなんつうかもう。殺す気か。
脱帽です。
ikas2nd :: 2010/03/15 09:33 PM
■オイサン
確かに、このSS郡はキミキスの話ではあるんですが、完全に”ぎーちワールド”でもあるんですよね。
彼でしか描けなかった世界であると思います。ただそれが、原作とかけ離れることなく機能してたために
当時の自分はキミキスの続編はこうなんだろうなと、簡単に落ちてしまったのですよ。

あと、どこかを切り取ったシーンとしてではなく、物語として成立してるのも面白いと思います。
ゲームをやってなくてもある程度わかるように出来ているというか…。まぁ、文章は分野じゃないので
細かい事までは自分にはよくわからないのですけどねw
にゃずい@管理人 :: 2010/03/21 10:01 PM

Comment Form